小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1531 音楽は希望の使い 市民オーケストラの映画「オケ老人」

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「オケ老人」という題名に惹かれて映画を見た。老人が中心の市民オーケストラを、杏演ずる高校の数学教師が指揮するストーリーだ。杏の指揮ぶりが真に迫り、オーケストラのメンバー役の俳優はベテラン(笹野高史左とん平小松政夫石倉三郎藤田弓子、茅島成美ら)をそろえ、映画の面白さを引き立てている。  

 現在、全国に幾つこうした市民オーケストラがあるのか分からない。だが、映画のオーケストラと同様、それぞれに歴史を持っているはずだ。仙台在住の友人、松舘忠樹さんも市民オーケストラで演奏を楽しんでいる一人である。所属するのは「仙台シンフォニエッタ」という1998年に設立された弦楽器を主体とする室内オーケストラで、ここでコンサートマスターをしている。  

 松舘さんは『アマチュアオーケストラは楽しい』(笹気出版)という本を出している。それによると、「仙台シンフォニエッタ」のメンバーは、「20~30歳台の若い人もいるが、還暦を過ぎた世代や昭和初年生まれという元気な老年が主力」(「中高年合宿は楽し」より)である。松舘さんは元NHKの社会部記者で、医者や学校の先生、家庭の主婦、会社員と様々な人で構成しており、「オケ老人」とよく似ている。  

 アマチュアの団体はもめごとが多いという。「オケ老人」も、オーケストラが分裂し、残ったのが老人ばかりという設定だ。松舘さんがかつて所属していたアンサンブルも、ワンマンリーダーの「アマチュアはプロの演奏家を引き立てるのが役割」という方針に反発して、松舘さんら多くのメンバーが身を引き、新たに「仙台シンフォニエッタ」を結成した。いまでは「仙台で一番楽しい演奏をするオーケストラ」という評判という。  

 仙台といえば、2011年3月11日の東日本大震災を忘れてはならない。松舘さんは、大震災後被災地を訪ね歩き、その実情を「震災日誌in仙台」というブログで報告し続けている。さらに、「仙台シンフォニエッタ」は被災した人たちを招待し、鎮魂と再生を願う演奏会を毎年開催しているのである。  

 人は、音楽に何を求めるのだろう。「希望の使い」と書いたのは音楽評論家の吉田秀和だった。大震災で大事な人と財産を失った人たちに、希望を持ってもらうことは容易ではない。だが、音楽はその希望の使いという役割を果たすことが可能なのである。それを松舘さんらは実践しているのだ。映画「オケ老人」に登場する老人たちも楽器を演奏することが生きがいであり、音楽が希望の使いであることを私たちに教えてくれている。  

 追記 松舘さんからの連絡によると、仙台シンフォニエッタはこのところ若返りが進み、最近開いたコンサートでは前半の2曲でトップに座った新コンマスは30歳台の弁護士で、団員とし大学出たての女性や現役の大学生も入団したという。そして、松舘さんは今回のコンサート限りでコンマスを降りた。今後は一団員として音楽を楽しむのだろう。

 「震災日誌in仙台」