小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

音楽

1778「はるかクナシリに」 国会議員の「戦争発言」と酒の二面性

「知床旅情」という歌を知っている人は多いだろう。作詞作曲した森繁久彌さんや加藤登紀子さんが歌い、私も好きな曲である。この歌の一番の詞の最後は「はるかクナシリに 白夜は明ける」となっている。「クナシリ」は北方領土(四島)のうちの国後島のことで…

1756 消えゆく校歌 ラオスとベトナムで歌い継がれる2つのメロディー

いま、日本の各地から懐かしいメロディーが消えつつある。校歌である。少子高齢化に伴う人口減少、東京をはじめとする大都市圏への人口の一極集中などによって公立学校の廃校が相次いでいるからだ。当然、校歌を歌う子どもたちの姿は少なくなり、校歌は卒業…

1752『メロディに咲いた花たち』 人々に愛される四季の花と歌の本

花をテーマにした歌は少なくない。四季折々の花を歌ったメロディは心を和ませてくれる。そうした花の歌を集めた『メロディに咲いた花たち』(三和書籍)という本が、このほど出版された。この本には歌の紹介に合わせてさまざまな花の写真も掲載されている。…

1690 台風一過の午後のひととき プレーヤーに入れたCDはあの曲

台風一過、暑さが戻ってきた。こんな時にはCDを聴いて少しでも暑さを忘れたいと思う。プレーヤーに入れたのは、チャイコフスキーの「弦楽セレナード」(ネヴィル・マリナー指揮、アカデミー室内管弦楽団)だった。実は昨日、友人が演奏者として参加したコン…

1686 夕焼けの中で 郷愁誘う自然の芸術

私は夕焼けを見るのが好きだ。なぜ? 大空に展開する自然の芸術に陶酔する時間がたまらないのかもしれない。昨日の夕、久しぶりにこの風景に出会った。猛暑続きの日々、夕焼けは翌日の好天の予兆だそうだ。その通り、きょうも朝から暑い。 昨夕、エアコンが…

1685 害虫と益虫をめぐる勘違い 「こがねむし」の歌私見

毎年、いまごろの暑い時期になると、庭のナツツバキ(シャラノキ)に昆虫がやってきて葉を食い荒らす。体長2・5センチほどの昆虫だ。背中は緑色に光っている。私はこの昆虫をカナブンだと思い込み、家族に「またカナブンが来ている」と話した。だが、調べ…

1668 被災地に流れる交響曲 自然との共生願って

仙台の友人がアマチュアオーケストラで、ベートーベン(ベートヴェンとも表記)の交響曲6番「田園」を演奏したという。この曲は多くの人が知っていて、かつては同名の名曲喫茶店もあった。そのポピュラー性が嫌われるのだろうか、クラシック専門家の評価はそ…

1644 音楽の文章化に挑む 須賀しのぶ『革命前夜』

若い友人が大学の卒業研究として、音楽をテーマにした小説に取り組んだ。当初、担当の教官は「それは音楽に対する冒とくだ」という趣旨のことを話し、友人の構想に疑問を呈したという。しかし、熱心に取り組む姿勢に打たれたのか、途中からそうした言葉は消…

1623 絶望の淵に立たされても 2つのエピソード

若い友人が書いた中編小説を読んだ。必要に迫られて書いたという作品を読んで、以前に見た小さな展覧会の絵を思い出した。それは、小児がんの子どもたちの絵画展だった。あれからもう10年になる。それは私にとって「命とは何か」を考えるきっかけとなる重…

1615 毎朝聴く名曲 美しい言葉とメロディー

朝6時半からのNHKラジオ体操は、第1と第2がある。第1の前には軽い運動、第2が始まる前には首の運動があり、それぞれに懐かしい曲のピアノ伴奏がついている。今朝の首の運動の際には「埴生の宿」が流れていた。竹山道雄の名作『ビルマの竪琴』にも出てく…

1610 ある小さな音楽交流会 クリスマスイブの名盤鑑賞

音楽の世界には老若男女の差別はない。クラシックが好きなひともいれば、ポピュラー音楽を聴くのを楽しみにしている人もいる。幅広い音楽の世界を味わおうと、レコードを中心に音楽鑑賞をしているグループがあり、私も初めて参加した。24日午後のひと時であ…

1559 こだまするホトトギスの初音 ウグイス・キジとの競演

朝、いつもより早く6時前に調整池を回る遊歩道を歩いていたら、ホトトギス(時鳥)とウグイス、キジが次々に鳴いているのが聞こえた。まさに野鳥のさえずりの協演だ。3種類の鳥が同時に鳴くなら三重奏(トリオ)という表現もできる。しかし、鳥たちは律義…

1543 豊穣な音楽の世界 恩田陸著『蜜蜂と遠雷』を読む

ピアノコンクールをテーマにした作品として思い浮かべるのは『チャイコフスキーコンクール ピアニストが聴く現代』(中央公論社)である。ピアニストの中村紘子(21016年7月26日に死去)がこのコンクールの審査員を務めた体験から、コンクールの舞台…

1531 音楽は希望の使い 市民オーケストラの映画「オケ老人」

「オケ老人」という題名に惹かれて映画を見た。老人が中心の市民オーケストラを、杏演ずる高校の数学教師が指揮するストーリーだ。杏の指揮ぶりが真に迫り、オーケストラのメンバー役の俳優はベテラン(笹野高史、左とん平、小松政夫、石倉三郎、藤田弓子、…

1529 初雪にしてこんなに積もるとは 冬の歌を聴く

まだ11月は1週間あるというのに、初雪が降り、数センチは積もった。わが家周辺は一面銀世界の様相を呈し、折角咲き始めた皇帝ダリアの花はしぼみ雪の重みで枝が折れそうだ。11月に雪が降り、しかも積もるなんて、驚くばかりである。 初雪にして一尺とな…

1505 被爆者たちの死の舞踏 71年前の人類の悲劇の体験

きょう6日は、広島原爆の日だった。河野治彦『灯篭流し 陽の目を見なかった父の原爆小説』(文芸社)を読み返した。原爆投下から終戦までの1週間の広島の街の実情を記した手記である。痛みに耐えるために地団駄を踏む格好をしながら、経を読むように一つの…

1476 桐の花が咲く季節 漂うトチノキに似た芳香

散歩道の斜面にある桐の花(俳句の季語は夏)が満開だ。いつもの年よりも早く花が咲いている。ことしの八十八夜(立春から88日目)は5月1日、立夏は5月5日だ。紫の筒状の花を見て、季節は春から夏へとバトンタッチをしていることを実感する。 桐の木の…

1453 3・11から5年 モーツァルトのレクイエム「涙の日」

「罪ある人 裁きを受けるために 塵より蘇える日 それは涙の日」 『レクイエム』(死者のためのミサ曲)の第7曲「ラクリモサ」の第8小節でモーツァルトの筆は途絶えた。それから間もない1791年12月5日未明、かつて神童といわれた音楽家は35歳とい…

1453 3・11から5年 モーツァルトのレクイエム「涙の日」

「罪ある人 裁きを受けるために 塵より蘇える日 それは涙の日」 『レクイエム』(死者のためのミサ曲)の第7曲「ラクリモサ」の第8小節でモーツァルトの筆は途絶えた。それから間もない1791年12月5日未明、かつて神童といわれた音楽家は35歳とい…

1451 「理想の音を求めて」 ピアノ調律師を描いた『羊と鋼の森』『調律師』

ピアノの調律師を描いた2冊の本を読んだ。宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋)と熊谷達也『調律師』(文春文庫)である。調律に魅せられた山育ちの青年(宮下著)と妻を交通事故で失った元ピアニストの調律師(熊谷著)が、それぞれの理想の音を求める物語…

1451 「理想の音を求めて」 ピアノ調律師を描いた2冊の本

ピアノの調律師を描いた2冊の本を読んだ。熊谷達也『調律師』(文春文庫)と宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋)である。わが家にもほとんど使われなくなったピアノがあり、調律もだいぶやっていない。以前は身近な存在だった調律師もかなり遠い存在になっ…

1426 風景との対話 冬の空を見上げて

朝焼を見た。俳句歳時記(角川学芸出版)で調べてみると、夏の季語の天文の項にあって「日の出間際の東の空が赤く染まる現象で、夏に多い。俗に朝焼の日は天気が下り坂になるといわれる」という説明が付いている。それにしても、空気が乾いたこの季節(冬)…

1368 釣鐘草と精霊の踊り 私的音楽の聴き方

道端に蛍袋(ホタルブクロ)の花が咲いている。歳時記には釣鐘草、提灯花、風鈴草ともと出ており、同じキキョウ科なのだ。ホタルブクロの花は下を向き、釣鐘草の花は上を向いて咲くらしい。 釣鐘草といえば、小学校で習った『スコットランドの釣鐘草(つりが…

1368 釣鐘草と精霊の踊り 私的音楽の聴き方

道端に蛍袋(ホタルブクロ)の花が咲いている。歳時記には釣鐘草、提灯花、風鈴草ともと出ており、同じキキョウ科なのだ。ホタルブクロの花は下を向き、釣鐘草の花は上を向いて咲くらしい。 釣鐘草といえば、小学校で習った『スコットランドの釣鐘草(つりが…

1367 『風に吹かれて』と『ティアーズ・イン・ヘヴン』 時を超えた名曲

詩人・コラムニストの高橋郁男さんが詩誌「コールサック」で連載している『詩のオデュッサイア―ギルガメシュからディランまで、時に磨かれた古今東西の詩句、四千年の旅』という詩論が7回を数え、米国のミュージシャン、ボブ・ディランの『風に吹かれて』(B…

1356 福美ちゃんへ 《悲しみを経て》

街路樹の中で特に存在感があるのはけやきである。いまの季節はけやきの緑の葉が目に優しく、その緑に見守られるようにして子どもたちが陽光の中を歩いている。その姿を見て、ふと「福美ちゃん」のことを思った。私は福美ちゃんとは面識がない。だが、福美ち…

1353 二足のわらじの芸術家たち 多彩な才能に畏敬

手近にあったCDをかけると、ロシアのアレクサンドル・ボロディン(1833~87)の「ノクターン~弦楽4重奏曲第2番ニ長調第3楽章」が流れてきた。ボロディンといえば作曲家のほかに化学者の顔を持ち、二足のわらじを履き続けた人である。多方面に才…

1352 春に聴くクラシック チャイコフスキーの弦楽セレナード

そう多くないクラシックCDの中で、なぜかチャイコフスキーの「弦楽のためのセレナード ハ長調、作品48」を3枚(古い順から①ネヴィル・マリナー指揮、アカデミー室内管弦楽団②ジャン・フランソワ・パイヤール指揮、パイヤール室内管弦楽団③小澤征爾指揮、サ…

1317 渡り鳥がやってきた 白鳥と皇帝ダリアに寄せて

今朝は寒い朝だった。散歩コースから見た調整池は、外気が冷えたために発生する水蒸気が上がっていた。渡り鳥の姿も次第に増えている。渡り鳥といえば、白鳥の飛来地で知られる新潟県の人造湖・瓢湖にも白鳥の季節がやってきたという。 知人から写真が届いた…

1269 hana物語(11) 一度だけの失敗

この文章を書いている私の部屋では、CDから静かな曲が流れている。ヨーゼフ・ハイドンの交響曲44番≪悲しみ≫(哀悼)だ。ハイドン自身が気に入っていた曲で、葬式には演奏してほしいと希望し、1809年にベルリンで行われた追悼際では第3楽章・アダー…