小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1368 釣鐘草と精霊の踊り 私的音楽の聴き方

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道端に蛍袋(ホタルブクロ)の花が咲いている。歳時記には釣鐘草、提灯花、風鈴草ともと出ており、同じキキョウ科なのだ。ホタルブクロの花は下を向き、釣鐘草の花は上を向いて咲くらしい。

釣鐘草といえば、小学校で習った『スコットランドの釣鐘草(つりがねそう)(The Blue Bells of Scotland)という曲を思い浮かべる人もいるだろう。原曲はイングランドとの間で繰り広げられた戦争に徴兵された恋人の帰りを待つ女性の思いがテーマといわれ、スコットランドの古い民謡として、長い間歌い継がれてきたのだという。

日本では小学校唱歌として採用され、何人かが訳詞をしている。私が覚えているのは野口耽介と堀内敬三の訳詞である。

  美しき わが子やいずこ

  美しき いとしきわが子

  しるべなき身 はるかの国へ

  はるばると 旅たちにけり

  美しき わが子やいずこ

  美しき いとしきわが子

  夢に見るは 幼き頃の

  あどけなく ほおえむ姿

  美しき わが子やいずこ

  美しき いとしきわが子

  つつがなきや のぞみにみちて

  ゆく道の 幸をば願(ねご)う

              (野口耽介)

  

  こみどりの 森の下かげ

  ひやびやと 風がわたれば

  目をさまして 釣鐘草は

  風の歌に ひとりほほえむ

  鳥も来ぬ 森の下かげ

  ひといろの 緑の中に

  白く光る 釣鐘草は

  さびしそうに ゆれてまどろむ

            (堀内敬三

前回のブログに書いたエリック・パトリック・クラプトン(1945~)の『ティアーズ・イン・ヘヴン』と同様、野口の訳詞は幼くて世を去った子どもへの鎮魂の詩といえよう。

以前、この曲と『精霊の踊り』を同じものと勘違いしていた。『精霊の踊り』はドイツ生まれのオペラ作曲家、クリストフ・ヴィリバルト・グルック(1714~1787)の歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」の中で歌われている。その出だしを聴いて「学校で習ったあの歌だ」と長い間、思い込んでいたのだ。

こちらはギリシャ神話を材料にしたオペラの第2幕第2場の冒頭、極楽の野原で精霊たちが踊る場面のゆるやかなバレイ音楽で、フルートの美しい旋律を持つことで人気がある曲である。手元にあるミュンヒンガー指揮シュトゥットガルト室内管弦楽団のCDは6分34秒の演奏だ。

私は間違いに気付いたあとも、精霊たちが踊る野原には釣鐘草が咲いている風景を想像しながら『精霊の踊り』を聴いている。