小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1729 ああ!妻を愛す 永遠の美を求める中山忠彦展

画像 中山忠彦は、日本の現代洋画界を代表する一人といわれる。ほとんどが自分の妻を描いた作品というユニークさを持つ画家である。千葉県立美術館(JR京葉線千葉みなとから徒歩で約10分)で開催中の「中山忠彦――永遠の美を求めて――」をのぞいた。それは驚きの展覧会だった。  

 驚いた理由は、展示されていたのがほぼ中山の妻、良江さんの絵だったからだ。次から次へと同じ女性を描いた作品が並んでいる。油彩画、版画、デッサンだけでなく、モデルとなった良江さんが着用したさまざまなドレス、帽子、扇子なども展示されている。  

 1935年に福岡県北九州市小倉区で生まれた中山は、高校卒業後文化勲章受章者の洋画家で、一貫して女性美を追求した伊藤清永(1911~2001)に師事、19歳で新日展に初出品(《窓辺》)して初入選、画家としての道を歩み始める。当初描いたのはほとんどが裸婦像だった。中山の画家としての運命を左右したのは良江さんだった。1963年、たまたま福島・会津への旅の途中の電車内で良江さんに会い、その美しさにひかれる。2年後に2人は結婚、その後は着衣の良江さんの絵を描き続けることになる。その結晶が今回展示されたおびただしい女性像だった。  

  結婚当時30歳だった中山は、現在83歳になる。当然ながら良江さんも同じ年輪を重ねた。順を追って作品を見ていくと、良江さんが微妙に変化していることに気が付く。だが、最近の作品を見ても「老い」は感じさせない。良江さんのドレス姿は違和感がなく、しかも年を増すごとに気品が漂うのである。それは優雅、典雅という言葉通りの美しさなのである。描く側と描かれる側。互いに信頼関係がなければ、これだけの作品を生む共同作業はできなかったのではないか。永遠の美という展覧会のサブタイトルの通り、良江さんの表情は生活臭がない。夫婦としての生活と画家とモデルという切り分けが徹底しているからなのだろうか。  

 女性を描いた作品といえば、黒田清輝の《湖畔》を思い浮かべる。浴衣姿で右手に団扇を持った女性が箱根・芦ノ湖畔にたたずむ姿を描いたものだ。モデルは後に黒田の妻となった金田種子(後の照子と改名)である。黒田は種子とともに箱根を訪れた際、芦ノ湖畔の岩に腰をかけて休んでいる種子を見て「モデルになってほしい」と言って、この作品を描いたというエピソードが残っている。では、中山と良江さんはどのような心構えで、二人三脚で制作に向かうのだろう。  

 写真は《繍衣立像=2012年、美術展パンフより》  

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1345 平山郁夫の一枚の絵 千葉県立美術館にて