小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1867 ライラックがもう開花 地球温暖化ここにも

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 つつましき春めぐり来てリラ咲けり 水原秋櫻子      

 近所を散歩していたら、ライラック(リラ)の花が咲いているのを見つけた。まだ4月に入ったばかりだから、例年よりもかなり早い開花だ。空は青く澄み渡り、紫色の花からは微かな香りが漂ってくる。世界を覆う新型コロナウイルス感染症の猛威という現実を忘れ、つかの間美しい花に見入った。  

 札幌で暮らしたことがある。街の中心にある大通公園には約400本のライラックが植えられており、毎年5月の下旬にライラック祭が開かれている。ことしも5月20日~31日の開催が予定されている。この花を見ると長い冬の終わりを実感したが、ことしは予定通り祭りが開かれるだろうかと危惧する。(このブログをアップしたあと、中止が決定した。6月のよさこいソーラン祭りも同様に中止が決まったという)  

 ライラックといえば、花の絵を好んで描いたゴッホの《ライラックの茂み》という作品を思い浮かべ、インターネットで検索して絵を見てみた。自然のエネルギーを感じさせるゴッホ特有の劇的な表現が目に付き、絵から花の香りが漂ってくるような錯覚さえ抱いた。フランスのアルルに住んだゴッホは、同居したゴーギャンとの芸術感の違いから自分の左耳の下部を切り取るという事件を起こし、1889年5月サン=レミの精神療養院に収容された。療養院の室内から庭を見ながら、《アイリス》などとともにこの絵を描いたという。(現在はロシア・サンクトペテルブルクにある国立エルミタージュー美術館が所蔵)  

 療養院でゴッホは当初、行動と制作は室内と庭に制限されたといわれ、庭にはさまざまな植物や雑草が手入れされぬままに伸びていたという。この庭を見ながらアイリスやライラック、バラの花の絵を描き、さらに野外制作が許されるようになると、糸杉や小麦畑などの制作に取り組み、代表作の「星月夜」もこの時代のものだ。ゴッホは翌1890年5月、オーヴェールに移り、その2カ月後自分の胸に銃弾を撃ち込んで亡くなる。そんな背景があるゴッホの絵は私を含め、見るものを惹きつけてやまない。  

 ところで、私はライラックのことを何度かブログに書いている。以前のものを見てみると、例えば11年前の2009年の435回目は、4月22日にライラックの開花を取り上げていた。10年以上前と比べ開花の時期が格段に早くなったことに驚く。地球環境の温暖化は、植物の生態系に大きな変化を及ぼしていることを示しているのは間違いない。今年はコロナウイルスの流行で桜の名所も閑散としており、まさに「つつましき春」である。そんな中で咲いたライラックは、道行く人に微かな香りを提供しているようだ。  

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 435 ライラックの咲くころ リラ冷えの季節に