小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1839 冬の朝のアーチ状芸術 虹の彼方に何が……

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 今朝は天気雨が降った。そのあと調整池の上には見事なアーチ状の虹が出た。虹は、雨上がりの時などに太陽と反対方向に現れる色のついた光の輪であり、太陽の光が雨滴の中で屈折して反射して発生するものだ。虹については世界で様々な言い伝えがあり、虹を指差すと悪いことが起きると信じている地域もあるそうだが、一方で虹に夢や希望を託す人も多いかもしれない。  

 虹=希望、夢というイメージを植え付けたのは、『虹の彼方に』(オーバー・ザ・レインボー)という歌の影響が大きいと思われる。この歌は、アメリカの児童文学作品『オズの魔法使い』(ライマン・ フランク・ボーム著)が原作の、同名のミュージカル映画(1939年)の劇中歌で、映画の大ヒットとともに世界的に有名になった。

「どこかに虹の彼方に 空高くに 夢の国があると いつか子守歌で聞いたわ この虹の向こうの 空は青く そこで信じた夢は すべて叶えられるの(英語版の意訳。以下略)」という詞のあの歌である。虹の彼方に何かがあると夢見た子どものころが、妙に懐かしい。  

 虹は夏に多く発生するため、俳句では夏の季語である。「虹立つも消ゆるも音を立てずして」(山口波津女)の句の通り、今朝の虹もいつの間にか出て、しばらくして消えてしまった。だが、その美しさに登校中の子どもたちが歓声を上げ、遅刻するよと母親らしき人から叱られている姿もあった。こんな日は少し遅れてもいいんじゃないかと、私は勝手に思ったりした。  

 虹を描いた西洋美術の作品としては、ピーテル・パウルルーベンス(1577~1640)の「虹のある風景」やカスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(1774~1840)の「虹のかかる山岳風景」が知られている。たまたま手元にあった飯田昌平編著『ミレー[名作100選]』(日本テレビ)という本に「春」という作品が出ており、この絵の背景にも虹が描かれている。ジャン=フランソワ・ミレー(1814~1875)は「落穂拾い」「晩鐘」「種まく人」があまりにも有名で、農民画家とも呼ばれている。「春」は晩年の傑作といわれる風景画で「四季」4部作(冬は未完)の1点として、1868年に描き始めてから73年に完成するまで5年を要した絵だという。  

 この絵を見ると、春の嵐を思わせるにわか雨がやんだ後なのか、後方左側の空には2本の虹が出ている。真ん中から左側は日が射して明るく、右下はやや暗い。花が咲いている果樹、野草の精密さが際立っている。ミレーは67年から3年間、毎年フランスのオーヴェルニュ地方の温泉保養地ヴィシーを訪れており、この絵もヴィシーの春景色を描いたのだろうか。自然を愛したミレーの目に、虹は畏敬する自然の象徴として映ったのかもしれない。  

 

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写真 1、2、3は調整池の上に立った冬の虹 4、ミレーの「春」(『ミレー[名作100選]』より)