小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1965 世界の人々を鼓舞する少女 ロッカクアヤコの奇想の世界

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 伊藤若冲は最近人気が急増している江戸時代の絵師です。高い写実性に加え、想像力を働かせた作品が特徴であることから「奇想の画家」と呼ばれているそうです。私は若冲の系譜を受け継ぐ現代の画家は「五百羅漢図」を描いた村上隆だと思っているのですが、最近その作品を初めて見た「ロッカクアヤコ」(本名、六角彩子=38)もまた、この流れの中で輝く一人ではないかという印象を持ちました。

 

 先月のことで遅きに失した感があるのですが、千葉県立美術館で開催中(2020年10月30日~ことし1月11日まで)の「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」をのぞきました。平日であり入館者は少なく、三密の心配がなく原色を使った独特の世界に浸ることができました。ロッカクは絵筆を使わず、手指に直接絵の具をつけ、段ボールやキャンバスに作品を描くため、いつしか「魔法の手」と呼ばれるようになったそうです。蛍光ピンクや赤、淡い青、黄色が重なりあった絵は、華やかさにあふれ、その色彩が織りなす世界に必ずアニメに出てくるような、大きな目をした少女が描かれています。

 

 同美術館のHPや美術誌の記事によりますと、ロッカクは千葉市の出身です。グラフィックデザインの専門学校を卒業後、20歳ごろから独学で絵を描き始め、手を絵筆替わりにする独特のスタイルを確立したそうです。2003年と2006年には、村上隆主宰の日本の若い芸術家の登竜門ともいえるアート・イベントGEISAIで、スカウト賞を受賞し、注目を集めました。その後海外に活動拠点を置き、アムステルダム、ベルリンを経て2018年からはポルトガルポルトに移り住んでいます。  

 今回の千葉県立美術館作品展は、ロッカクにとって初めての国内での大規模企画展だそうです。この準備のため2020年2月に帰国したのですが、その後新型コロナ感染症が世界的に拡大したため、そのまま日本にとどまり新作の制作活動を続けたそうです。半年で約160点の作品が生まれ、中でも段ボールを組み合わせた高さ5メートル、幅7メートルのおにぎり型をした《Magic Hand》(下の写真・同美術館の小冊子から。下記の千葉県立美術館HP、美術手帖参照)は、圧倒的存在感があります。

 そのほか伝統工芸品の「静岡挽物(ひきもの)」の一輪挿し用の絵も目に付きます。丸みを帯びたり、尖ったりしたユニークな宇宙船に乗る少女の姿を描き出した「宇宙戦争」と題したシリーズを見て、私は「奇想の画家」としてのロッカクの存在を浮き彫りにしているように感じました。

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 ロッカクはこの後、ドイツとオランダで企画展を計画中だそうです。ただ、コロナ禍により日程は未定だといい、毎日新聞のインタビューに「ピンチはどんな時でも常にどこかにあるので、今できることの中でいちばん面白いことに挑戦していきたい」と、答えています。独学で世界に飛び出したロッカク。私はロッカクの奇想の世界に初めて浸って、どの絵にも描かれている「目の大きな少女」がコロナ禍にあえぐ地球上の人々を鼓舞してくれているのではないか、そう受け止めました。

 関連ブログ・サイト↓  

1472 奇想の画家の系譜 伊藤若冲から村上隆へ  

1562 「生と死」にどう向き合う 草間彌生展にて

1422 芸術は歴史そのもの 絵画と映画と  

千葉県立美術館HP  美術手帖