小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2058 岸田氏は普通の人か 小学生が見た自民党総裁選

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「Aは影が薄い、Bは普通、Cは影が濃い」。自民党総裁選をテレビで一緒に見ていた小学5年生の家族が、こんな感想を漏らした。影が薄いは、存在感がないという意味だ。最近の子どもは社会の動きをよく見ている。私はこの指摘に舌を巻きながら、同じ思いになった。

「影が薄い」は普通に言うが、反対語ともいえる「影が濃い」は使わない。「存在感がある」とか「生命力があふれている」といえばいいのかもしれない。しかし何事においても濃すぎること(やり過ぎ)はよくない。まあ、言葉の使い方は別にしても、3人の政治家に対する小学校高学年の見方はなかなか鋭い。

 ここで、種明かし。Aとは1年で首相をやめる菅義偉氏、Bは新しく自民党総裁に選ばれ、次の首相になる岸田文雄氏、Cは自民党総裁選の決選投票で岸田氏に敗れた河野太郎氏だ。現代の小学生は侮れない。

 この選挙では地方票(いわば国民の見方)で圧倒したにもかかわらず、国会議員票で河野氏は岸田氏に負けた。前回安倍晋三氏と石破茂氏の構図も同じだった。国会議員の票が岸田氏に集まった背景には、自民党で今も隠然たる力を持つ安倍氏の動きがあったことはここで書くまでもない。自民党の国会議員は国民の声より、党の実力者や派閥の親分の顔色を見ているとしか思えない。

 それにしても、この総裁選のやり方は旧態依然としている。一々、国会議員が登壇して投票、それが終わると、投票箱から用紙を取り出し、投票箱を選挙管理委員と議員に見せる。用紙の点検も手作業だ。用紙の名前(候補者名)を確認、振り分ける。投票結果の判明までは20分程度の時間がかかる。電子投票を採用すれば、こんな時間は必要ではない。菅政権はデジタル庁を設置したが、おひざ元は昔ながらの、のんびりとしたやり方を続けていることに、違和感を持った。

 言葉で躓いた感がある菅氏に比べ、岸田氏は自分の言葉で発信をしようとしている。側近の作文を頼ることなく、自分の考えをきちんと国民に伝えてほしいと思う。岸田氏が取り組むべき第一は、言うまでなくコロナ禍をいかにして収束させるかだ。第5波が下降カーブを描き、これまで各地に出されていた緊急事態宣言と蔓延防止重点措置は10月1日に全面解除になる。リバウンドによって第6波が心配だという専門家の声もある。猛威を振るった第5波がなぜ急減したのかよく分からない。ワクチン接種の進行、飲食店の夜間アルコール提供禁止、人込みでのマスク着用と手洗いなど、感染者減少の要因は考えられるが、なぜここまで急減したのだろう。国民の抗体保有率が高まったのだろうか。

 小学生の目では岸田氏は「普通の人」に見えるようだ。広辞苑で「普通」について調べると、①ひろく一般的であること。多くに当てはまること②どこでも見受けられ、他と特に変わらないこと―と出ている。私の目から見ても、岸田氏の取り柄は政治家に見られる偉ぶった様子がないことだ。普通とは、常識を大事にすることでもある。岸田氏がこの姿勢を続けることができるのかどうか、見守りたい。安倍氏自民党の実力者といわれる政治家の顔色をうかがい、旧来の派閥均衡の閣僚人事をやるようでは、普通の人以下になってしまうだろう。