小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1969 生涯現役と老害と 仲代さんと政治家たち

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 俳優の仲代達矢さんがラジオに出演し、最近米寿(88歳)を迎えたと話していました。1932(昭和7)年12月13日生まれ。今も現役の俳優です。政治の世界。新しくアメリカの大統領になったバイデンさんは78歳と、史上最高齢での大統領就任だそうです。日本でも80歳を超えても、現役を続ける政治家がおります。「老年における熱意と活力は、仕事をするのにすぐれた気質である」(岩波文庫ベーコン随想集・42「青年と老年について」)という言葉もありますが、そうなのでしょうか。    

 仲代さんは最近の自身について「70を過ぎると役者は名優と言われますが、実は歳とともに芸は落ちているのではないかと反省して、新人よりも一生懸命勉強しています」「一日一生……。今日が一生、明日もし生きていたら一生、次の日も生きていたら一生と、一日一日が勝負だと思い、役者を頑張ります」と話していました。こうした謙虚な姿勢が、仲代さんの演技を支えているようです。これこそベーコンが言う「老年の熱意と活力」といっていいでしょう。  

 日本の政治家で80歳を超えた人は何人かいますが、中でも麻生財務相(80)と自民党の二階幹事長(81)は、内閣と自民党の重鎮ですね。この2人にも「熱意と活力」は備わっているようです。ただ、その言動は国民には高圧的で傲慢に映ることが少なくないため、このところネットでは「老害だ」という言葉が飛び交っています。コロナ禍の最中に内閣を投げ出した安倍前首相を加え、3人に対し国会議員を引退すべきだという声も高くなっているようです。  

 政治家は、国民の声に耳を傾ける謙虚さがなければならないのは当然なことです。ところが、最近は上から目線の言動を続け、国民から選ばれた者という意識を忘れた政治家が横行しています。そんな日本の政治の実情を見ていますと、公然とうそをつき続け、何でもありの無茶苦茶路線を貫いたトランプ流政治は決して対岸の火事ではないと思えてならないのです。  

 ベーコンは同じ「青年と老年について」の中で「年とった人々は異議が多すぎ、相談が長すぎ、冒険が少なすぎ、後悔が早すぎ、めったに仕事をとことんまでやりとげず、いいかげんな成功で満足する」とも書いています。これに思い当たる人は多いはずです。最近の菅首相のコロナ対策の朝令暮改ぶりは「後悔が早すぎ」というより、見通しの甘さを物語っているようです。一方、仲代さんの活動ぶりは、「めったに仕事をとことんまでやりとげず、いいかげんな成功で満足する」とは無縁なのではないでしょうか。  

 戦後、日本占領の連合国最高司令官を務めたマッカーサーは、トルーマン大統領によって司令官を解任された後、米議会で退任演説をしました。その演説で当時、兵士たちが歌っていたという風刺歌のフレーズを引用し「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」という有名な言葉を残しました。このフレーズを借りれば仲代さんは「老役者は死なず、ただ演技するのみ」ということになるでしょうか。では2人の政治家は「老政治家は死なず」のあとの「ただ〇〇〇のみ」にはどんな言葉を入れたら適当でしょうか。  

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