小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2001 10年以上前にパンデミックを警告「こちらからウイルスを見つけに行け」と

          f:id:hanakokisya0701:20210426072322j:plain

 10年以上も前に、新型コロナ感染症の出現を予言するような記事が書かれていた。当時、深く考えずに読み流した。感度が鈍かったのは、私だけではないようだ。

《はたして人類を襲う『次のパンデミック』は豚インフルエンザなのか、それとも鳥インフルエンザなのか。それはまだまだ何も分かっていない。HIV(ヒト免疫不全ウイルス~いわゆるエイズ後天性免疫不全症候群))に似たサル由来のレトロウイルスや、東南アジアのジャングルに生息するコウモリ由来の致死性の高いウイルスが蔓延する可能性もある。(中略)ヒトが動物の病原体(豚インフルエンザも含む)に感染する危険性はますます高まっている。安全面で問題がある家畜飼養慣習の拡大や地球温暖化などの要因も、リスクを悪いほうに高めている可能性がある。》

 これは、講談社発行の月刊誌「クーリエ・ジャポン」2009年7月号(2016年4月号で紙の雑誌は休刊、電子版に移行)に掲載された「新型インフルエンザはどうすれば防げたのか?」(筆者はイギリスの医学史家・ジャーナリストのマーク・ホニグスバウム氏で、パンデミックに関する著作がある)という記事の一部だ。同誌は外国メディアの記事を翻訳して日本人向けに紹介しており、この記事はイギリスの政治・ビジネス雑誌「プロスペクト・マガジン」から転載した。

 この記事によると、感染症の専門家の間ではパンデミック感染症の世界的流行)がいつ発生してもおかしくない状況だといわれていた。記事は続いて近世の感染症の大流行の歴史を振り返り、第一次大戦末期に世界で5000万人を超える死者を出たスペイン風邪(毒性の強いインフルエンザ)も、襲来をだれもが予測できなかったパンデミックスだったとしている。この後、冒頭の文節になるのだが、「コウモリ由来の致死性の高いウイルスが蔓延する可能性もある」という記述は、結果的に今回の新型コロナウイルスの出現を予測したものと言える。

 この記事は続いて、グーグルなどIT企業による携帯端末を使った感染予防の取り組みなどを紹介している。そのうえで、これら最新技術を利用したアプローチの問題点は「受動的」なところだと指摘し、「ウイルスが襲ってくるのを待つのではなく、こちらからウイルスを見つけにいけばいい」「アジアやアフリカのジャングルを旅してまだヒトに感染していない動物ウイルスのデータを集める作業が重要」などと、能動的な活動の必要性を提言している。

 特にWHO(世界保健機関)の働きが不十分であることを指摘し、WHOがウイルス探査をしっかりやっていれば、エイズやSARSの流行を回避できた可能性があるとも書いている。記事は最後に「WHOでパンデミック発生を監視している職員は、インターネットに費やす時間を減らし、ジャングルで新種の感染症を探索すべきだ。そうしなければ、次のパンデミックが発生したとき、私たちは20世紀初頭の(スペイン風邪当時の)人々と同じような対処しかできないだろう」と警告している。

 新型コロナウイルスによる感染症が中国で流行を始めた当時、エチオピア出身で、中国寄りといわれているテドロスWHO事務局長は、2020年2月24日、3月2日、同5日の記者会見でパンデミックを否定、世界各国が協調して取り組めば封じ込めは可能との見解を表明した。3月11日になってようやくパンデミックと認めたという経緯がある。こうしたWHOの後手に回った動きが、スペイン風邪以来のパンデミックを招来してしまったと言っても過言ではないだろう。

 ことしになって中国・武漢に入ったWHO調査団の調査も当初中国側が受け入れに消極的だった。動物から人間への感染が最も可能性が高いとしつつ、武漢の中国政府のウイルス研究所からの流出説はほぼ否定した報告書に対し、日米英韓など14カ国が調査結果は満足のいくものではなかったと批判したことでも分かる通り、WHOの信頼は失ってしまったといえる。

 このパンデミックを警告する記事が出てから約10年後、それが現実になってしまった。「今求められているのは、こちらからウイルスを見つけに行くことだ」という提言は生かされなかった。素人の私でもこの提言は今後に生かすべき人類共通のテーマではないかと思う。「攻撃は最大の防御なり」(古代中国の軍略家・孫子の兵法)なのだ。世界各国は相変わらず軍事費に巨額を投入し、軍備拡張競争を続けている。コロナ禍は軍拡よりも大事なことがあることを示しているはずで、指導者は目を覚ますべき時ではないか。