小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1534 「些細なことでも予断は許さない」 最近のニュースに思うリルケの言葉

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「この世のことはどんな些細なことでも予断を許さない。人生のどんな小さなことも、予想できない多くの部分から組み合わされている」。オーストリアの詩人、ライナー・マリア・リルケ(1875~1926)は唯一の長編小説『マルテの手記』の中で、こんなことを書いている。含蓄ある言葉である。昨今の世界の動きを見ていると、リルケの考え方の確かさを感じ、身震いする思いなのだ。  

 次の米大統領に、大方の予想に反してトランプが決まったこともその一例だ。EU離脱を選んだイギリスの国民投票もそうだ。日本の国会では、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案を可決した。しかし、トランプ大統領の実現によってその行方は不透明である。韓国国会が朴槿恵大統領の弾劾訴追案を可決し、韓国の国政が混乱している。1年前、だれがこんな事態を想像しただろうか。  

 東京電力福島第一原発廃炉処理費もこれまで予定した額の倍増の21兆円になると、経産省が試算を発表した。これだって怪しいものだ。さらに増額ということになる可能性もある。このつけは私たちの次の世代へと回される。原発は安いわけがないことが分かっても、再稼働へと走る現政権に危うさを感じる。脱原発を訴え当選した三反園訓という鹿児島県知事の言動もあやふやだ。  

 1兆9000億円もの税収の落ち込みで赤字国債を発行するというニュースもあった。財政健全化は遠のく一方だ。円安の影響で法人税収が落ち込んだというが、法人税の実効税率は本年度から引き下げられたばかりである。一方で、安倍首相は海外で湯水のように経済支援という名のばらまきを続けているし、国家公務員の給与も引き上げているのだから、訳が分からない。  

 リルケ(1875年12月4日~1926年12月29日)はプラハ(当時はオーストリア=ハンガリー帝国、現在はチェコの首都)で生まれた。『マルテの手記』は、リルケ唯一の長編小説で、パリで孤独な生活を送っているマルテというデンマーク出身の青年詩人の目でパリの風景や芸術のこと、自分の思い出などを随想として描き続ける。1910年の発表だから106年前の作品である。  

 この4年後の1914年6月28日、オーストリア=ハンガリー帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の世継、フランツ・フェルディナント大公は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都サラエボで暗殺された。このサラエボ事件をきっかけに第一次世界大戦が始まる。この大戦は早期に終わるはずとみられたが、その予想は外れ、4年以上に及ぶ悲惨な戦争となり、兵士・民間人を含む犠牲者は3700万人に達した。  

 リルケの言葉は、この大戦を予言していたように思えてならない。リルケの言葉を思いながら新聞のニュースを見ることにしよう。  

652 戦争とは幻滅 第一次大戦を描いた「八月の砲声」

1248 歴史・時間の空間に学んだのか 第1次世界大戦勃発100周年  

写真 亀山湖の紅葉(千葉県君津市にて)