小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1527 未来信じる日本語ガイド  水上生活者の子ども相手に私設の学校

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 知人がカンボジアプノンペンで、一人のガイドに出会った。送られてきた知人の旅行記は、ガイドのことを「氏」という敬称をつけて表現していた。それはなぜなのだろう。読み進めるうちにその理由が分かった。ガイドは私設の学校をつくり、子どもたちに勉強を教えるボランティアだったからである。  

 知人を案内してくれたガイドはセイハ氏といい、ふだんは世界遺産アンコールワットの観光拠点、シェムリアップに住んでいる。プノンペンよりもシェムリアップの方が日本人観光客も多いはずで、当然、アンコールワットガイドがふだんの仕事なのだろう。今回は、知人らのガイドのためプノンペンに出張したという。  

 セイハ氏が住むのは、カンボジアでもよく知られている東南アジア最大の湖、トンレサップ湖(琵琶湖の4倍に当たる2500平方キロ)近くで、この湖には約100万人の水上生活者がいるといわれる。これらの人々は漁業で生計を立てているが、水質が悪化して漁獲量は年々減少、生活困窮者が増えているというのである。カンボジアの教育制度は日本と同じく6・3・3制で、最初の9年が義務教育となっている。  

 セイハ氏によれば、学齢期の子どもの93%が入学するものの、6年後に残るのは48・8%だけである。経済的に子どもたちも働かざるを得ないのがその理由で、特に水上生活者の子どもはほとんど教育を受けていないのが現状だ。こうした子どもたちは、都市へ出て就職することは難しく、漁業を継ぐしかない。  

 そこで、セイハ氏は、水上生活者を説得し、教育を受けることに同意した家の子どもたちを集め、自宅の一部を私設の学校にして、「読み、書き、計算」という基本的な勉強を教えているというのだ。授業料は無料で、雇った教師の給料はセイハ氏が負担している。ことしは8人が入学し、全部で20人の生徒がいる。将来は、パソコンも教えてやりたいと考えている。セイハ氏は「私が政治家になったら、水上生活者を他産業に就かせる政策をやりたい」と語ったという。逆に考えれば、現政権にはそうした政策はないということなのだろう。  

 知人は、現在のカンボジアについて「前へ進もうとしているのだが、躊躇しながら歩いているような印象だ。気にかかるのは教育の遅れが、子どもたちの将来を暗くしないかである。職に就けない、就いても肉体労働や単純な仕事で低収入に甘んじなければならず、貧困の連鎖を生まないか」と心配する。セイハ氏に関しては「私財を投じて、教育に取り組んでいるセイハ氏は、この国の未来を信じているのであろう。心に残るガイドだった」と書いている。セイハ氏だけでなく、志のある人が育ってきていると信じたい。

1128 ベトナム・カンボジアの旅(3) 授業料無料の日本語学校