小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1515 中国の旅(2) 内モンゴル草原になびくハダク

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 モンゴルの人々はハダクという青い絹の布を大事にする。それは中国・内モンゴルでも同様だ。内モンゴル工業都市、包頭から車で2時間半かけて希拉穆仁(シラムレン)(モンゴル語で黄色い川の意味)という名の草原に行った。内モンゴルなのだからモンゴル族の人々がほとんどと思ったが、このあたりの包(パオ)で暮らしているのは多くが漢族の人たちだった。だが、ハダクを敬う風習は変わっていなかった。

 ハダクは、スカーフのような長さの青い布である。青色は昔からモンゴル族に愛されている天空の色といわれ、チンギス・ハンが勢力を拡大した当時から青い旗が使われたという。八木さんの故郷の一つ、薩拉斉訪問の合間に包を訪れ、子山羊の丸焼きを食べたあと、この青い布をもらった。さらに、野外劇場でチンギス・ハンの戦闘遠征を祈る場面と思われる多くの人馬が登場する野外劇を見たあと、大勢の人が小高い丘に登っていく。

 頂上には石で積み上げられた4段の円形の塔があり、青い布と黄色い布が巻き付けられている。円形の塔はオボーと呼ばれるそうだ。人々は周りを3回回った後、渡された青い布をオボーに思い思いに巻き付けている。布に何かを書いたものもある。それは祈りや希望を書いたもののようで、巻き付ける作業が終わると、オボーに向かって祈っている。

 オボーの裏側には広大な草原が広がっている。緑の季節が終わり、草原は薄い茶の色になっている。 国立民族学博物館のHPにはハダクのことが次のように紹介されている。

「大切な相手に贈り物をするときや、女性の父親に結婚の許可をもとめにいくとき、新年の挨拶のときなどに使われます。ハダクを前に伸ばして開いた両腕の上にかけ、真ん中をたるませるようにして贈り物と一緒に相手に手渡されます。相手に対する敬意の表象であるとともに、天の神にささげる祈りのこもったものでもあります。天地神を祀るオボーと呼ばれる石塚やモンゴル人が神聖視する岩や木、石像などにもハダクが結び付けられています。モンゴルを走るほとんどすべての車のミラーにも、このハダクが巻き付けられています」

 八木さんは薩拉斉に住んでいた少年時代、馬に乗って郊外まで何度も走ったことがあるという。希拉穆仁(シラムレン)の草原で、私たちは馬に乗って約1時間歩いた。80歳を超えた知人はさすがに遠慮したが、写真撮影のために少しだけ乗った乗馬姿は堂々としていて、昔を彷彿とさせる。知人は故郷を離れて71年後、このような体験ができたことにうれしさを隠さなかった。生きることに努力し続けた彼を、ハダクの神が呼んでくれたのかもしれない。

 (続く。次回は日本人と中国人について)

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 写真 1、包の丘の上にハダクが見える 2、ハダクに向かって登る人々 3、ハダクには青い布がたくさん巻き付けられている 4、ハダクの裏側には広大な草原があった