小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1616 知は力かあるいは…… ワインは「試食」のブラックユーモア?

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「知(知識)は力なり」という考え方を広めたのはイングランドの哲学者、フランシス・ベーコン(1561-1626)だった。これに対し2世紀後、ドイツの哲学者ショーペン・ハウエル(1788 - 1860)は「『知は力なり』。とんでもない。きわめて多くの知識を身につけていても、少しも力を持っていない人もあるし、逆に、なけなしの知識しかなくても、最高の威力をふるう人もある」と述べている。最近、物議を醸した2人の人物の言葉で、著名な哲学者の格言を反芻した。  

 お騒がせ男ともいえるアメリカのトランプ大統領の言動は、どう見ても2人の哲学者の言葉とは縁遠い。1月11日に開かれた移民政策をめぐる超党派上院議員らとの会合で、アフリカ諸国やハイチ出身のアメリカ在留者に対し「そんな汚い便所のような国の連中を、なぜ受け入れるのだ」などと述べたというのである。     

 間もなく大統領就任1年の節目を迎えるトランプ氏だが、その言動は知性とはかけ離れているし、強引な政策は決して最高の威力を発揮しているとはとても思えない。トランプ氏の言動を見ていると、「財産の貧乏は治すことはやさしいが、精神の貧乏を治すことはできない」というモンテーニュ(1533-1592)の言葉が頭をよぎるのだ。  

 知性を発揮し、権力と対峙するはずの言論人でさえも、時には「少しも力を持っていない」状態に陥ることがある。これを例示したのは中日新聞社前社長で現主筆小出宣昭氏(73)だった。13日に名古屋市で開かれたシンポジウムで、愛知県三河地方出身の大村秀章知事について話した際「時々、大村さんのような保守かリベラルか、性同一性障害ぐらいの知事が出ます」と発言し、終了後記者団に対し「言葉が滑った」と語り、発言を撤回したという。

 根底に性同一障碍者への差別意識があったから、こうした発言になってしまったのだろうか。新聞社の主筆といえば、自他ともに「知は力なり」を体現する人物と思うのは、早計だった。  

 話は変わるが、先日アメリカ系の大型スーパーに行った際、ワイン売り場で「こちらの商品 試食できます TRY SAMPLE!」という張り紙を見た。ワインのおつまみを指す張り紙かと思ったが、付近に食べ物は何もなく、ワインが並んでいるだけだった。すぐ近くには試飲のコーナーがあり、張り紙があったワインももちろん試飲用に置かれていたから「試食」は「試飲」の誤りだったに違いない。

 アメリカ系のスーパーなので、張り紙の担当者が日本語に堪能でないために、こんな間違いを犯したのかもしれないし、あるいは単なる印刷ミスだったかもしれない。だが、私は内心笑いながら、ワインを試食したらどんな感じなのだろうかと、一瞬考えた。(車でやってきたので、もちろんやらなかった)その意味でも、張り紙はブッラクユーモアだった。

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 写真は、美しい夜明けの空(調整池付近)