小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2020-01-01から1年間の記事一覧

1931今年も咲いたアメリカデイゴ 台風禍からの復活

自然界の復元力、なんていうとやや大げさかもしれない。 近所の遊歩道脇に植えてあったアメリカデイゴ(和名・海紅豆=カイコウズ)が昨年9月の台風15号で倒され、市から依頼された業者によって根元からきれいに切り取られた。毎年初夏から晩夏まで花を咲…

1930 教養ある人間の条件 チェーホフの手紙から

ロシアの文豪、アントン・チェーホフは多くの手紙を書いたことで知られる。中でも実の兄あての教養に関する手紙は辛辣で、面白い。27歳だったチェーホフは、少しだけ年上の兄を「天才」と持ち上げたあと、1つだけ欠点があると書く。それは「無教養」だと…

1929 文芸作品に見る少年たち 振り返る自分のあの時代

最近、少年をテーマにした本を続けて読んだ。フィクションとノンフィクションに近いフィクション、ノンフィクションの3冊だ。読んだ順は馳星周『少年と犬』(文藝春秋)、高杉良『めぐみ園の夏』(新潮文庫)、佐藤優『十五の夏』(幻冬舎文庫)になる。そ…

1928「いつも一緒にいてね」それぞれの愛犬との別れ

《僕(私)の嫌なところに行くときは、お願いだから一緒にいてよ。見ているのが辛いとか、見えないところでやってとか、そういうことは言わないでよ。そばにいてくれるだけでいろんなこと、頑張れるようになるんだ。愛してるよ。それを忘れないでね。》『少…

1927「本の表紙を変えただけでは」 理想の政治家像とは

「本の表紙だけを変えても、中身が変わらなければ駄目だ」。自民党の総裁選のニュースを見ていたら、こう言って、総理大臣(首相)になるのを固辞した政治家がいたことを思い出した。私は政治家は嫌いだ。だが、当時この政治家の気骨ある姿勢に驚き、自民党…

1926 学べき悔恨の歴史 秘密文書に見るユダヤ人問題

前回のブログで、ナチス・ドイツの強制収容所アウシュヴィッツにあったオーケストラのことを書きました。引き続きこれに関連したことを記したいと思います。太平洋戦争中、日本政府が人口・民族政策に関する研究を行い、秘密文書をまとめていたことはあまり…

1925 アウシュヴィッツのオーケストラ 生き延びるための雲の糸

「人間の苦悩に語りかけ、悲しみを慰め、それをいやすよう働きかける力こそ、音楽のもつ最高の性質の一つだと信じる」。音楽評論家の吉田秀和は、『音楽の光と翳(かげ)』(中公文庫)で音楽の力について書いている。第2次大戦下、死が日常化したナチスの…

1924 秋風とともに第2波去るか シューベルトの歌曲を聴きながら

新型コロナの感染拡大が止まらない。9月1日午後1時(日本時間)現在、世界の感染者は2540万5845人、死者は84万9389人(米・ジョンズ・ホプキンズ大まとめ)に達している。悔しいことだが、死者が100万人を超える日はそう遠くはないはず…

1923 政権を投げ出した首相 現代の政治家が失ったこと

本来なら有終の美を来年の東京五輪で飾るはずだった。だが、安倍首相は28日、辞任を表明した。持病の難病、潰瘍性大腸炎が再発したというのが表向きの理由だ。あと1年の任期を残しての辞任の背景に何があるのだろう。病によって精魂ともに尽き、政治のリ…

1922 早朝の二重(ふたえ)虹 天まで続く七色の階段

「こんな美しい虹を見たのは初めて」「二重の虹はなかなか見られないよね」。朝6時前、雨上がりの北西の空に虹が出ているのを見た。しかも二重の虹である。散歩を楽しむ人たちは、束の間の自然界のパノラマに見入っている。何かいいことがありそうな、そん…

1921 金に頼る政治家たちへ 寅さんの怒りの口上が聞こえる

「天に軌道があるごとく、人はそれぞれ自分の運命というものを持っております。とかく気合いだけの政治家はうわべはいいが、中身はない。金を使えば何でもできると思っていたら、そりゃあ、間違いだよ。な、そうだろう」。 暑い日々、家に籠ってぼんやりと新…

1920 旭川を愛し続けた人 少し長い墓碑銘

せきれいの翔(かけ)りしあとの透明感 柴崎千鶴子 せきれいは秋の季語で、水辺でよく見かける小鳥である。8月も残りわずか。暑さが和らぐころとされる二十四節気の「処暑」が過ぎ、朝夕、吹く風が涼しく感じるようになった。晩夏である。遊歩道に立つと、…

1919 近づく新米の季節  玄関わきに田んぼあり

今年も新米の便りが届く季節になった。散歩中に、近所の家の玄関わきで稲を栽培しているのを見つけた。水田というにはあまりにも小さい。高さ約30センチほどのコンクリートで囲った、1坪程度の小さな田んぼだ。中の稲は元気に育って実をつけ、頭を垂れて…

1918 夏の風物詩ヒマワリ物語 生きる力と悲しみの光と影

ヒマワリの季節である。8月になって猛暑が続いている。そんな日々、この花は勢いよく空へ向かって咲き誇っている。「向日葵の百人力の黄なりけり」(加藤静夫)の句のように、この黄色い花がコロナ禍の世界の人々に力を与えてほしいと願ってもみる。よく知…

1917 8年間に6000キロを徒歩移動 過酷な運命を生き抜いた記録

今年5月、このブログで『今しかない』(埼玉県飯能市の介護老人保健施設、楠苑・石楠花の会発行)という小冊子を紹介した。この中に「「私の人生は複雑で中国に居たんです。抑留されて8年間いました。野戦病院だったから、ロシアの国境近くから南の広東ま…

1916 別れの辛さと哀しみ 遠い空へと旅立った友人たちへ

私らは別れるであらう 知ることもなしに 知られることもなく あの出会つた 雲のやうに 私らは忘れるであらう 水脈のやうに (立原道造詩集「またある夜に」より・ハルキ文庫) 梅雨が明けたら、猛烈な暑さが続いている。そんな日々、友人、知人の訃報が相次…

1915 20年後の新聞 紙の媒体は残るのか

「20年後も(新聞が)印刷されているとしたら、私には大変な驚きだ」。アメリカの代表的新聞であるニューヨーク・タイムズ(NYT)のマーク・トンプソン最高経営責任者(CEO)の発言を聞いて、驚く人、悲しむ人、当然だという人……さまざまな感想があ…

1914 核の脅威依然減らず 安らかに眠ることができない時代

安らかに眠るに核は多すぎる 小栗和歌子さん作のこの川柳は、1975年9月号の「川柳 瓦版」に掲載されたものだ。「安らかに眠る」とは、広島の原爆慰霊碑(1952年建立)の碑文「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」(雑賀忠義広島大…

1913「 シンプルに生きる日々」 作家のような心境にはなれない

この時代をどう見るか。それは世代によっても、これまでの人生経験でも違うかもしれない。コロナ禍が世界各国で日々拡大し、死者が増え続ける事態に人類が試練に直面していると思う。私のこうした焦りは、戦争という修羅場を体験していないのが原因なのだろ…

1912 電動でもペダルを漕いで! 2020年夏の小話

「電動自転車というのに、ペダルを漕がないと動かないのかねえ?」 「乗るだけでは動きませんよ。バッテリーのスイッチを入れ、ペダルを漕ぐ必要があります」 このところ急速に普及している、いわゆる「電動自転車」をめぐる落語のような話を聞きました。新…

1911 私利私欲を憎め 小才子と小悪党がはびこる時代

現代の日本社会を見ていると、小才子(こざいし)と小悪党が跋扈(ばっこ)し、私利私欲のために権力を動かしている者たちが大手を振って歩いている。これは独断と偏見だろうか。決してそうではないはずだ。コロナ禍に襲われた今年も残りは5カ月余になって…

1910 奇跡を願うこのごろ 梅雨長し部屋に響くはモーツァルト

「奇跡」を辞書(広辞苑)で引くと、「(miracle)常識では考えられない神秘的な出来事。超自然的な現象で、宗教的真理の徴(しるし)と見なされるもの」とある。2020年の今年こそ、奇跡が起きてほしいと願う人が多いのではないだろうか。ある日突然、こ…

1909「人生は死に至る戦いになる」かみしめる芥川の言葉

先日、俳優の三浦春馬さん(30)が自殺し、テレビのワイドショーでは連日過熱報道が続き、行き過ぎだという声も出ている。そんな折、今月24日が「河童忌」であることを思い出した。大正文壇の寵児といわれた芥川龍之介の命日(1927年7月24日)だ…

1908 魔手から子どもたちを守れ コロナ禍の少数山岳民族地帯の現状

「人里離れた地域や経済的に困難な家庭環境にいる子どもたちが、様々な危機に直面しています」。山岳少数民族地域など、アジアの辺境で学校建設を進めているNPOアジア教育友好協会(AEFA)の会報30号に、新型コロナウイルスがこの地域の子供たちに…

1907「それを言っちゃあおしめえよ」 寅さんに怒られる

「それを言っちゃあおしめいよ」。寅さんが怒っている夢を見た。天国で楽しい生活を送っているはずの柴又の寅さん(山田洋次監督、渥美清主演「男はつらいよ」シリーズの主人公)は、いつもの、あのスタイルで、普段の柔和な表情とはかけ離れた厳しい顔で、…

1906 気になることを調べる楽しみ「紫陽花、曲師、風呂」について

新聞を広げると、このところ毎日暗いニュースが紙面を埋め尽くしている。世の中の動きを正確に伝えるのが使命だから、紙面が豪雨被害、コロナ禍を中心になるのは当然なことだ。そして、豪雨の被害者やコロナで亡くなった人たちを思うと、気持ちが落ち込んで…

1905 アメリカへ社会の病根の深さを抉った本 対岸の火事視できない日本

アメリカ中西部ミネソタ州の白人警官による黒人男性暴行死事件(ことし5月発生)に抗議するデモが全米に拡大している。この背景にあるのは、言うまでもなく人種差別と深刻な格差社会である。その象徴のような存在に思えるトランプ大統領を「金儲けと貪欲一…

1904「医」と「恥」から想起すること 国手が欲しい国は

山形県酒田市出身の詩人吉野弘(1926~2014))の詩『漢字遊び』の中に「医」「恥」という短い作品がある。コロナ禍の現代を端的に表すような詩を読んで、私は漢字の妙を感じ、同時に多くの政治家の顔を思い浮かべた。 吉野の「医」は以下の通りだ。…

1903「星月夜」に一人歩いた少年時代 想像の旅フランス・長野・茨城・富山へ

ゴッホが、代表作といわれる『星月夜』(外国語表記=英語・The starry night、フランス語・ La nuit étoilée、オランダ語:・De sterrennacht=いずれも邦訳は星の夜)を描いたのは1889年6月、南フランスのサン・レミ・ド地方プロヴァンスにある修道院…

1902 手塚治虫が想像した21世紀 「モーツァルトは古くない」

「鉄腕アトム」の作者、手塚治虫(1928~1989)は、21世紀とはどんな世紀と考えていたのだろうか。「原子の子、アトム」というキャラクターを漫画に描いた天才だから、私のような凡人とは異なる世紀を夢見ていたに違いない。人類を苦しめる新型コ…