小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1908 魔手から子どもたちを守れ コロナ禍の少数山岳民族地帯の現状

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「人里離れた地域や経済的に困難な家庭環境にいる子どもたちが、様々な危機に直面しています」。山岳少数民族地域など、アジアの辺境で学校建設を進めているNPOアジア教育友好協会(AEFA)の会報30号に、新型コロナウイルスがこの地域の子供たちに深刻な影響を及ぼしている実情が掲載されていた。そんな子どもたちに「一条の光」が差し始めているという。

「『新型コロナ』その先を考える」と題した会報には、ベトナム、タイ、ラオススリランカの状況が現地NGOからの報告として掲載されている。いずれも外出禁止や休校といった社会隔離政策がとられたが、タイの非常事態宣言が今月31日まで延長されたものの、既に経済活動を再開している。4カ国のAEFAが支援活動をしている地域では、コロナによる感染者は出ていない。しかし、社会的に隔離された状況下、子どもたちに魔手が伸びているというのだ。以下の記述を読んで、コロナの影響の深刻さを感じるのは私だけではないだろう。

「村の封鎖等、地理的な移動が制限されたことにより、日雇い労働に従事していた村人たちが収入を失い、食料不足や経済的困窮が迫っています。精神的なストレスが女性や子どもへの家庭内暴力や、少数民族へのいじめにつながるケースもあるようです。また、学校が休校になったことで、子どもたちは思わぬ危険にさらされることになりました。親が畑仕事に出ている間に怪我をしたり、勉強する手段がないため無為の生活(ただ、ぶらぶらしている)に陥ってしまったり、人身売買のリスクも高まっているようです。子どもたちをウイルスから守るだけでなく、子どもたちが安全に、生き生きと過ごすことができるよう、子どもの人権を守り、社会環境を整えることが強く求められています」  

 こうした子どもたちのために、ベトナムのNGO、CSDは教師、保護者、児童生徒が一緒に子どもの権利、ハラスメント(いじめや嫌がらせ)、安全衛生について学ぶプログラムを立案した。子どもたち自身が選択・判断をして自分の身を守ることができることを目的にしたものだ。次世代を担う子どもたちが活動の中心になり、学校から家庭・地域へと波及させるアプローチは、このプログラムのほかラオスの環境問題をテーマとした活動でも導入されているという。

 冒頭に「一条の光」と書いたが、その光はさらに輝きを増し、子どもたちの健やかな成長を後押しするに違いない。 かなり以前のことになるが、AEFAの人たちに同行してラオスに行ったことがある。季節は雨季。当時、山岳地帯の道路は未舗装のため深い泥道になり、車の通行に難渋した。あれから多くの時間が流れ、そうした地域もかなり変わっただろう。しかし、医療体制はまだまだ弱く、感染が拡大すれば被害が深刻になるのは容易に想像できる。それだけに、次のような感染数を見ると、各国政府の対策が効果を挙げていることが分かり、一方で日本の実情に愕然とするばかりなのである。  

 米ジョンズホプキンズ大学のまとめ(17日午後1時現在)によると、AEFAが学校建設の支援活動をしている4カ国のコロナの感染状況はベトナム381人(死者0)、タイ3236人(同58)、ラオス19人(同0)、スリランカ2686人(同11)――となっている。

 このうち人口が約9620万人のベトナムに関して注目すべきニュースがあった。世界銀行(世銀)が「世界経済見通し2020年6月版」で、今年のベトナムのGDP(国内総生産)成長率がプラス2.8%になると予測したからだ。中国は1%、日本とアメリカはマイナス6・1%であり、世界各国が軒並みマイナス成長だから、ベトナムの経済の堅調ぶりは驚きといっていい。脱コロナに成功したと見ていいのかどうか分からないが、現段階ではそれに近い状況にあるのかもしれない。  

 AEFAが建設支援をしたベトナムのティエンボ小学校(東北部トゥエンクアン省)からは、コロナ予防ソングに合わせて「手洗いダンス」をする子どもたちの動画が送られてきたという。「コロナ禍をダンスで吹き飛ばそうという、明るく強い姿勢が見られ、子どもたちにとって、学校がとても大切な場所になっていることを実感しました」と、事務局長の金子恵美さんは書いている。コロナの早期の収束とともに、大切な場所である学校を子どもたちから遠ざけるような、感染症の大流行や争闘が今後、全世界で起きないことを願うばかりである。

 写真はAEFAフレンド会報30号の表紙。掌に日本とベトナムの小さな国旗を載せた子どもと先生  

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