小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1921 金に頼る政治家たちへ 寅さんの怒りの口上が聞こえる

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「天に軌道があるごとく、人はそれぞれ自分の運命というものを持っております。とかく気合いだけの政治家はうわべはいいが、中身はない。金を使えば何でもできると思っていたら、そりゃあ、間違いだよ。な、そうだろう」。

 暑い日々、家に籠ってぼんやりと新聞の川柳を読んでいたら、映画『男はつらいよ』の、寅さんの切れ味のいい口上が聞こえるような気がしてきた。そうか、金に頼って不正が発覚した政治家たちをいまいましく思って、寅さんは声を掛けてきたのだ。先月も寅さんに怒られる夢を見た。最近、どうやら天国の寅さんは地上の人間たちの行状にイライラしているのもしれない。

 川柳は、俳句と同様、五七五の17音定型で、俳句と違って季語を入れる必要がなく、切れ字(や、かな、けり、など終止の働きをする字のこと)などの制約もない。江戸中期から流行し、人情、世相、風俗などを風刺し、軽妙に滑稽に描くことが特徴だ。私は川柳を書いたことはない。ただ、時々新聞に出ている川柳を読んで、その批判精神に喝采を送ることが多い。川柳を趣味にしている知人もおり、この人たちは、社会の動きをきちんと見つめているに違いないと思うのだ。

  朝日川柳欄(27日)には西木空人選として6句が載っている。寅さんは、このうちの2句の対象になった政治家(政治屋と呼ぶ方が適切か)に怒っているのだろう。

 下心なく札をねじ込むご両人 岩手県 奥山与惣美(河井夫妻無罪主張)

 腐敗した賭博の沼の臭い花 兵庫県 岸田万彩(秋元議員再逮捕)

  

 寅さんの口上は続いている。(ブログ筆者の創作)

  暑い日が続いております。わたしは相も変わらず旅の空の下、汗を流しながら日々働いているのでございます。今日の仕事が終わっておばちゃんがひとりでやっている粗末な食堂に入り、夕飯をかっこみながらテレビを見ておりますと、国会議員という偉い人がまた捕まったというニュースをやっておりました。何でも、カジノをつくろうという業者から金をもらった疑いで1度捕まり、今度は業者に裁判でうその証言をするように働きかけたのがバレてしまったということでした。

  わたしには難しいことは分かりません。それでも、おばちゃんの顔を見ていたら、何ともひどい話だと感じました。わたしはガキのころからいろんないたずらはいたしましたが、人から後ろ指を指されるような悪いことはやったことがないのでございます。そのニュースを見ながら、食堂のおばちゃんが「悪いことをすれば、お天道様がお見通しなんだね」としゃべったので、私は「その通りだよ。ばあさん」と相槌を打ちました。すると「わたしゃあ、ばあさんじゃないよ」と怒られてしまったのでございます。

  おばちゃんは、自分の奥さんを選挙で当選させるためにと金をばらまいた疑いで捕まった国会議員夫婦のことも話しておりました。「あんなに大勢の人に金をばらまいたら変だと思われ、世間が黙っていないはずだよ。あの2人は世間のことは何も知らないのかねえ」というのです。その通りと思ったわたしは「天網恢恢疎にして漏らさず、だな」と言いました。「どんな意味だい」と聞かれましたので、「悪いことをすれば天罰が下る、そんな意味だなあ」と答えました。おばちゃんは、たまげた顔をして「あんさんは、学がおありなんですねえ」と、しみじみわたしの顔を見つめたのでございます。

  勘定を頼みますと、800円というのです。褒められていい気になったわたしは千円札のつもりでお札を1枚出し、お釣りはいらないといって、店を出ようとしたのです。すると、おばちゃんは「こんなにいただいていいのですか」と言いながら、お釣りをくれようとしました。千円札だと思って間違えて5千円札を出してしまったのです。でも、わたしは大の男ですから、一度出した金は受け取れません。「いいよ、いいよ」と言い、鷹揚な態度でおばちゃんと別れたのでございます。

  ただ、財布の中には数枚の千円札しか残っていませんでした。「しまった」と思ったのですが、まあ仕方ないですな。金は天下の回りもの、何とかなるでしょう。わたしは、これから安い宿を探すつもりです。でも本音を申しますと、男とはつらいものでございますね。あんなニュースを見なければ、こんなことにはならなかったと思いながらとぼとぼと歩いております。しばらくすると、道のわきに川の流れが見えてきました。さらさらと流れるきれいな川を見ていましたら、故郷に残した、おいちゃん、おばちゃん、妹のさくら一家のことを思い出してしまったのです。そうです、わたくしの生まれ故郷は、東京は葛飾柴又、江戸川のほとりなのでございます。ところで、わたしの故郷でも流行っているあの伝染病は、いつ収まるのでしょうか。え! 分からない、そうでございますか。そうでしょうねえ……。

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