小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

美術

1345 平山郁夫の一枚の絵 千葉県立美術館にて

「サラエボは画家としての私に、どんな境遇や環境にあろうと、平和を祈る作品を描き続けなければならないと、あらためて覚悟させた。画家として、感動することがいかに大事であるかを再認識させた」――。 改修工事のため休館していた千葉県立美術館が再開館し…

1328 人間賛歌・種まく人 ミレー展にて

ジャン=フランソワ・ミレーの「種まく人」(1850年)に触発されて、フィンセント・ファン・ゴッホが同じ題名の作品を描いた(1880年)ことはよく知られている。東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「ボストン美術館・ミレー展」で見た「種ま…

1322 冬本番、春を待つ心 東山魁夷展にて

東京・恵比寿の山種美術館で開催中の「東山魁夷と日本の四季」という特別展をのぞいた。東山魁夷(1908~1999)が亡くなってことしで15年になる。 以前、東山魁夷の絵は東京世田谷にある長谷川町子美術館と竹橋の東京国立近代美術館で見ているが、何回見ても…

1322 冬本番、春を待つ心 東山魁夷展にて

東京・恵比寿の山種美術館で開催中の「東山魁夷と日本の四季」という特別展をのぞいた。東山魁夷(1908~1999)が亡くなってことしで15年になる。以前、東山魁夷の絵は東京世田谷にある長谷川町子美術館と竹橋の東京国立近代美術館で見ているが、何回見ても…

1311 「戦争」を憎むシャガールの絵 チューリヒ美術館展をのぞく

マルク・シャガール(1887~1985)の「戦争」を見た。大作の割には立ち止まる人が少なく、時間をかけることができた。国立新美術館で開催中の「チューリヒ美術館展」。展示された74点(絵画大半で一部が彫刻)は、画家たちの代表作といわれるものが…

1123 遠くから見つめる富士 凛とした姿描いた友人の絵

富士山の世界遺産(文化)登録が決まる直前、大阪から上京した友人から一枚の日本画をもらった。雪を抱いた富士山とその前には白い波の海が広がっている。各地から望む富士山の姿を描いた葛飾北斎の「富獄三十六景」や以前のブログで紹介した平松礼二の「2…

1012 ああフェルメールよ 残暑の中の絵画展にて

日本人のフェルメール(ヨハネス・フェルメール、オランダ、1632-1675)好きは相当なものだと思う。「真珠の耳飾りの少女」と「真珠の耳飾りの女」(こちらもパンフには少女とあったが)という2つの作品が展示された上野の森にある東京都美術館と…

987 寺田寅彦と正岡子規 高知県立文学館の「川と文学」展にて

高知市にある高知県立文学館をのぞいた。「川と文学」という企画展が開かれていた。高知出身の作家や高知にゆかりのある作家、高知を舞台にした文学作品に関しての資料が展示されていた。 それにしても高知県にゆかりのある文学者の多いことに驚いた。 井伏…

973 人生讃歌・画家の夢 シャガールの愛をめぐる追想展

「愛の画家」といわれるマルク・シャガール展が日本橋・高島屋で開かれている。日本未公開作品を中心にした「愛をめぐる追想」という名前がついた企画展だ。 一方、長崎県美術館でもほぼ同期間に「愛の物語」というシャガール展が開催中で、97歳まで生きた…

868 「凛」として生きる日本へ 平松礼二の「祈り」を見る

3・11は、多くの日本人に打撃を与えた。被災地の人々だけでなく、被災地から離れて生きる私たちもその例外ではない。日本画家の平松礼二は、大震災被災者への思いを「2011311-日本の祈り」という作品に込めたのだという。 荒れ狂う海に囲まれ、花…

847 2月の印象 国立新美術館の日美展を見る

東京・乃木坂の国立新美術館で開催されている「第12回日美絵画展」をのぞいた。友人の田口武男さんの作品がが日本画部門の秀作に選ばれ、展示されたからだ。 公益財団法人国際文化カレッジの主催で入選した2000点を展示するという大きな美術展だった。…

831 友人の受賞に笑顔を戻したい 日美展の「2月の印象」

正直なところ、東日本大震災以来、心の底から笑ったことはない。体に悪いと知りつつ、被災地のこと、原発事故のことを思うと軽々に笑うことはできないと思ってしまうのだ。 「笑いの自粛」みたいな感覚なのか。 退陣を迫られ「ペテン師」と言われても、土俵…

774 絵本作家・加藤祐子さんとの出会い 絵心を考える

女子美の4年生で、この春大学院に進むという絵本作家・イラストレーターの加藤祐子さんに会う機会があった。幼いころからの夢を実現した輝く才能の持ち主だ。 加藤さんは、2009年に福島県矢祭町で開催された第1回矢祭もったいない図書館「手作り絵本コ…

769 幸福の国ブータン 若い画家の個展「景色と面影」

詩人の故飯島正治さんの長男で画家の誠さんが東京・京橋の画廊で「景色と面影」という個展を開いた。30数点の淡い色彩の作品の中にブータンの自然を描いた「道」など2点があった。ブータンは日本人にはなじみの薄い国だ。 私が2009年に訪れたラオスと…

733 一枚の絵に既視感 千葉のホキ美術館にて

過日、ある美術館に入った私は一枚の絵の前で「既視感」を持った。それはつい最近オープンした「ホキ美術館」でのことだった。 この美術館は名前からして変わっている。展示内容も「写実絵画専門」なのだという。 写実絵画の代表的な作者としてクールベ、コ…

733 一枚の絵に既視感 千葉のホキ美術館にて

過日、ある美術館に入った私は一枚の絵の前で「既視感」を持った。それはつい最近オープンした「ホキ美術館」でのことだった。 この美術館は名前からして変わっている。展示内容も「写実絵画専門」なのだという。写実絵画の代表的な作者としてクールベ、コロ…

692 不思議な空間に酔う 十和田の現代美術館

青森県十和田市に行ってきた。平成の大合併といわれた2005年の市町村合併で、旧十和田湖町とそれまでの十和田市が合併して「十和田市」になったので、市の一部は十和田湖に近い。 しかし、私が行った十和田市中心部にある十和田市現代美術館は、十和田湖…

683 62歳から始めた力強い油絵 九十九里海岸・望月定子美術館にて

62歳から油絵を始め、89歳で亡くなるまで筆を離った女性の画家の存在を初めて知った。その画家の名前は望月定子という。 彼女が独力で創設したのが「望月定子美術館」だが、入場者は私たち夫婦以外だれもいなかった。「夏休みなので、大勢の人が来るでし…

515 巨匠の国は落書き天国 スペイン・ポルトガルの旅(2)

ピカソの「ゲルニカ」という大作の前からなかなか立ち去ることができなかった。マドリードのソフィア王妃芸術センター2階にこの作品は展示されている。縦3・5メートル、横7・8メートルの巨大なものだ。(市内で見かけたユニークな落書き) スペイン内戦…

409 ふきのとう 苦い味は酒の友

娘が「ふきのとう」をどっさりもらってきた。春を告げる食べ物だ。てんぷらや味噌和えにしてもらう。一口食べると苦味が口の中に広まる。大人の味だ。これをもし喜んで食べる子どもがいたとしたら、大人びたやつだ。 最近までこの植物が私の誕生日(2月16…

357 けなげな子どもたち 小児がん患者の絵画展で涙

千葉の幕張メッセで14日から始まった小児がん学会の会場一角で「命の輝き」を訴える絵画展が開かれた。 「財団法人 がんの子供を守る会」が10年前から毎年実施しているささやかな展覧会だ。この展覧会をのぞいて、あるポスターの前でくぎ付けになり、涙を…

354 詩的な旅エッセー 伊集院静「旅行鞄にはなびら」

風邪が長引き、一日中横になっている。そんな時に手に取ったのがこの本だ。ヨーロッパを中心に、花を求め絵画を鑑賞する旅をテーマにした伊集院静のエッセー集「旅行鞄にはなびら」だ。 短い25本のエッセーはどれもが詩的であり、随所で小説家の鋭い観察力…

354 詩的な旅エッセー 伊集院静「旅行鞄にはなびら」

風邪が長引き、一日中横になっている。そんな時に手に取ったのがこの本だ。ヨーロッパを中心に、花を求め絵画を鑑賞する旅をテーマにした伊集院静のエッセー集「旅行鞄にはなびら」だ。 短い25本のエッセーはどれもが詩的であり、随所で小説家の鋭い観察力…

344 フェルメール展はラッシュ並みの人出 ある日の上野の森

10月の上野公園は、さわやかな季節とあってかなりの人出でにぎわっている。JRを降りて動物園方向へと歩くと、右手に「国立西洋美術館」がある。 フランスの設計家ル・コルビュジエによる建物は、世界遺産候補となり来年9月にその可否が決まる。そんなことを…

344 フェルメール展はラッシュ並みの人出 ある日の上野の森

10月の上野公園は、さわやかな季節とあってかなりの人出でにぎわっている。JRを降りて動物園方向へと歩くと、右手に「国立西洋美術館」がある。 フランスの設計家ル・コルビュジエによる建物は、世界遺産候補となり来年9月にその可否が決まる。そんなことを…

339 中欧の旅(10)名画で読み解くハプスブルク家12の物語

約650年という長い時代、ヨーロッパに君臨したのがハプスブルク王朝だ。日本では徳川幕府(江戸時代)が264年、足利幕府(室町時代)が237年の長期政権を維持したが、とても及びもつかない。スイスの一豪族が偶然手にした神聖ローマ帝国皇帝という地位から、急…

329 中欧の旅(3) フェルメールも見た・ドレスデン国立絵画館にて

悔しいと思った。素晴らしい作品がこんなにあるのに時間がない。それと、美術作品に対する知識が少ない。目の前に次々と出現する名画を見ながら私は戸惑った。 いま、話題のフェルメールだけでなく、レンブラント、ラファエロ、エル・グリコらの作品を展示す…

325 躍動する朱色の世界 絹谷幸二展

金曜日の夕方、私は心も体も疲れ切っていた。このところ重いテーマのイベントに接することが多かったからだ。だが、会場に一歩足を踏み入れると、その疲れを忘れてしまった。日本橋・高島屋で開かれている「絹谷幸二展」でのことだ。 それは朱色の世界であり…

295 「美しい」が死語の時代 拝金主義と美意識と

美術家の森村泰昌さんと分子生物学者の福岡伸一さんの『「美しい」って死語ですか』という対談が朝日新聞(7日付け朝刊)に掲載された。2人は対談で、最近「美しい」という言葉が語られなくなったと言う。そういう時代に突入したのだろうか。 2人の話の主…

285 モノクロ・影絵の世界へのいざない「般若心経」写真展を観る

一般的な日本人は、信仰心が薄いのではないか。ただし初詣や受験の際には、にわかに信仰心が出るのか寺や神社に詣でるし、旧い神社仏閣が好きな人も多い。しかし、どうみても私を含めて基本的にキリスト教やイスラム教が普及した諸国に比較すれば、ふだんの…