小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

733 一枚の絵に既視感 千葉のホキ美術館にて

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過日、ある美術館に入った私は一枚の絵の前で「既視感」を持った。それはつい最近オープンした「ホキ美術館」でのことだった。 この美術館は名前からして変わっている。展示内容も「写実絵画専門」なのだという。写実絵画の代表的な作者としてクールベ、コロー、ドーミエ(いずれもフランス)が有名だ。日本でも岸田劉生がこの分野でも名をなしている。 変わった名前と書いたが「ホキ」というのは、館長の保木将夫氏の名字なのである。医療関連製品メーカー「ホキメディカル」の創設者で、写実絵画に魅入られた保木氏がコレクションを展示するために、地上1階、地下2階の美術館を造り、この3日にオープンしたのだ。画像 保木氏は40人の作家が描いた300点の写実絵画を所蔵しており、うち163点が常設展示され、多くの人でにぎわっていた。チケットを買って館内に入ろうとすると、館長の保木氏自らパンフレットを渡してくれた。館内に入ると、「いいなあ」「どうしてこんなに精密に描けるのかなあ」「写真よりいいよ」といった声が聞こえる。その通りだと思った。 一枚一枚ゆっくりと鑑賞し、「朝・トレド・雨上がり」という岩本行雄の作品の前で釘づけになった。トレドは首都・マドリードにも近いスペイン中部の町で中世の姿を残した街並みが評価され、タホ川に囲まれた旧市街は世界遺産に登録されている。ギリシャ人のエル・グレコがここに住み、トレドの街並みを描いた何枚かの作品を残している。岩本の絵を見ながら昨年秋スペインを旅し、トレドにも足を踏み入れたことを思い出した。画像(私が撮影したトレド) そうだ。それで既視感持ったのかもしれない。岩本の作品は高台からトレドの町を見下ろしたものだ。この風景は何だろうと思った。まさしく1年前に同じ場所に立っていたのだと気がつくまでそう時間はかからなかった。家に帰って、昨年の旅行の写真を探してみると、町を見下ろす場所から撮影した写真が見つかった。 構図は絵とよく似ている。同じ場所から私は写真を撮影し、岩本は絵に描いたのだ。私はただぼんやりとシャッターを押して通り過ぎたが、岩本の絵からはトレドという長い歴史を持つ町の哀愁のようなものが漂っているのを感じた。それは画家の感性なのだろうか。画像 この美術館には人物、海外風景、国内風景、静物の作品がある。中でも岩本の作品、野田弘志の「蒼天」という火山の絵や原雅幸の「光る海」という大阪近郊の農村の絵が心に残った。15人の作家の「私の代表作」というコーナーには、100号を超える大作が特別展示され、作者の作品へのコメントが入った解説音声を座って聞くことができる。(私の写真の反対側から見たトレド=ウェブより) ここには板谷波山の陶器も実は展示されているが、この展示室には私以外だれもいなかった。陶器の展示室も一見の価値がある。併設の「はなう」というレストランも評判がいいらしい。