小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

769 幸福の国ブータン 若い画家の個展「景色と面影」

画像 詩人の故飯島正治さんの長男で画家の誠さんが東京・京橋の画廊で「景色と面影」という個展を開いた。30数点の淡い色彩の作品の中にブータンの自然を描いた「道」など2点があった。ブータンは日本人にはなじみの薄い国だ。

 私が2009年に訪れたラオスと同様、経済的に苦しく、教育事情も悪い。だが、絵を見ていると不思議に心が落ち着く。画家の絵心をとらえる何かがこの国にはあるのだろう。

 ブータンは王国で、「国民総幸福量」(GNH)という精神的な豊かさを目指すユニークな政策がある。物質的豊かさを求めるより精神的豊かさ、幸福を目指すという考え方で、2007年の同国政府の調査では9割の国民が「幸福」と答えたという。ブータンの知識人は「経済的に豊かな先進国の人々が幸せとは限らない」と指摘する。

 それは、一昨年旅をしたラオスでも感じたことだった。この旅で一緒だった宍戸仙助さん(福島県・東舘小校長)が最近、ラオスを再訪した。ラオスに魅入られた宍戸さんは、今回出会った子どもたちについて「子どもたちの目の輝きは穏やかであっても、すべてを吸収しようとする鋭い輝きで光っていました」と感想を書いている。

 では、幸福の国・ブータンの子どもたちの表情はどうなのかと気になった。 「道」という10号の作品は、右側に粗末な小屋があり、その左側に未舗装の道が通っている。その脇には林が広がっており、後方には小高い山がある。この道は車が走ることも、人が通ることも少ないのではないかと想像する。

 それは私が子どものころの日本の風景と酷似している。こんな道を私はとぼとぼ歩いて学校に通ったものだ。誠さんがブータンに行ったのは昨年6月のことで、飯島さんはそれから3カ月後に亡くなった。自然を愛した飯島さんに見せたかった一枚だ。

 私は、飯島さんが残した詩の中で「日々」という詩が好きだ。以前のブログでも紹介しているが、嫁いだ娘さんを思い出した微笑ましい内容だ。

<五月の嵐が止んだ午後 濡れた庭土に花びらが散り敷いている スパゲッティをゆでていると 遠くへ嫁いだ娘の明るい声が聞こえてくるような気がした 「塩をちょっと入れてゆでるよ、お父さん>

 この詩に出てくる飯島さんの長女の松浦史子さんも個展会場に来ていて初めて話をする機会があった。嫁ぐ前、父親を気遣う娘の姿を思い出しながら、この詩を書いた飯島さんは幸せだったに違いない。画像 個展は東京都中央区京橋2-6-8仲通りビル1階ドゥ画廊で1月30日(日)まで開催している。