小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

973 人生讃歌・画家の夢 シャガールの愛をめぐる追想展

画像 「愛の画家」といわれるマルク・シャガール展が日本橋高島屋で開かれている。日本未公開作品を中心にした「愛をめぐる追想」という名前がついた企画展だ。

 一方、長崎県美術館でもほぼ同期間に「愛の物語」というシャガール展が開催中で、97歳まで生きたシャガールがおびただしい作品を残したことがうかがわれる。高島屋の方には、93歳の時の「画家の夢」という作品が展示されている。

「人生讃歌」ともいうべき、人の心を和ませる絵だ。 私がシャガールを意識したのは、1978年に公開された東映の「冬の華」という映画である。

 高倉健が主演したこの映画は、降旗康男がメガホンを取り、脚本は「北の国から」の倉本聰が担当した。暴力団の抗争をテーマにしたもので、北大路欣也池上季実子が出演している。

 映画の詳しいストーリーは忘れたが、暴力団の組長がシャガールの絵を見せて自慢している場面があり、こんな階層の会話にシャガールをさりげなく取り入れた倉本のセンスに驚いたことを覚えている。

 シャガールは、帝政ロシア時代のヴィテブスク(現在のベラルーシ、ヴィーツェプスク)で1887年7月7日に生まれた東欧系ユダヤ人で、ロシアよりもベルリン、パリでの生活が長く、第二次大戦中はアメリカに亡命した。

 フランスに戻ってからは、南フランスのバンスやサン・ポール・ド・バンスに住み、1985年3月28日に97歳で亡くなっている。高島屋に展示されたのはスイスの個人所蔵家のもので、さまざまな愛をテーマにした作品だという。

 色彩が独特で、人間のほかに鶏や馬などの動物たちも登場する幻想的な作品の中で、「画家の夢」では抱き合い寄り添う人たち、空に溶けるように浮かぶ人、馬に乗る人と多くの人が描かれている。左上にはそうした人々と離れて絵を描いている画家(シャガールか)がいる。

 2つの大戦を体験しユダヤ人として命の危機に見舞われたシャガールの人生は、平坦ではなかった。この絵は、1世紀近くを生きたシャガールの人生への思いを象徴しているのだろう。

 シャガールの収蔵作品が多いことで知られる高知県立美術館は、ことし4月から6月3日まで開催した「シャガール 愛の物語」展で、展示作品の人気投票をしたそうだ。その結果「散歩」という作品が一番の得票だったという。男が屋根の上に立ち、浮揚した女性の手をつないでいる。シャガール好きにはたまらない一枚のようだ。 画像