小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

515 巨匠の国は落書き天国 スペイン・ポルトガルの旅(2)

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ピカソの「ゲルニカ」という大作の前からなかなか立ち去ることができなかった。マドリードのソフィア王妃芸術センター2階にこの作品は展示されている。縦3・5メートル、横7・8メートルの巨大なものだ。(市内で見かけたユニークな落書き) スペイン内戦の際にフランコ将軍側を支援したナチスドイツが小都市ゲルニカを無差別に空爆した。その報を聞いたピカソが怒りの意思を込めて描いたとされる絵だ。死んだ子を抱きながら泣いている母親や天に救いを求める人、狂ったようにいなないている様子の馬など、絵全体からは戦争の悲惨さが伝わる。スペインにはこのピカソをはじめ、ゴヤエル・グレコレンブラント、ベラスケスと、絵画の天才、巨匠が多い。そんな絵画の国で、あらゆる場所で落書きが目に付いた。スペインは「落書き天国」といっても過言ではない。 スペイン第二の都市は、バルセロナだ。この街の高台にあるガウディ設計のグエル公園に行く途中、落書きを自由にさせるという通りがあった。その通りのわきには、長い壁が続いており、いろいろな落書きが書かれている。落書きのコンテストをやっているようなものなのだ。ほかの場所のものに比べれば、質も高いように思える。 それにしても、スペインの街は落書きが多い。出来立てのビルの壁やシャッターに堂々と様々な落書きが書かれている。空きビルの多くはそうした被害を受けており、各地で見かけた落書きにはほとんど芸術性はないようだった。芸術センターやプラド美術館を案内してくれたガイドさんは「ピカソの絵は子どもの落書きみたいに見えるかもしれませんね」と冗談を言っていたが、落書きの書き手の中には、将来大画家になる可能性を秘めた人がいるのだろうか。 プラド美術館にはゴヤが描いた「黒い絵」といわれる14枚の絵があった。「我が子を食らうサトゥルヌス」など、怪奇な作品の連続だ。40歳を過ぎて、油が乗り切ったときに病気で聴力を失ったゴヤは、その後代表作といわれる作品を次々に描いていく。「裸のマハ」や「着衣のマハ」のような女性の絵も描いた半面で「マドリード」という戦争の絵のほかに、黒い絵シリーズも描いた。 ガイドさんは「聴力を失ったゴヤの狂気の作品です」と説明した。黒い絵シリーズは、1820年から1823年にかけて住んだ「聾者の家」という別荘のサロンや食堂の壁に描いたと伝わる。しかし、こうした怪奇な作品を見ながら食事をしたとしたら、ゴヤという人物のスケールは並外れて大きい。その発想力、表現力は私の想像の範囲を超えている。
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ピカソゲルニカ