小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

831 友人の受賞に笑顔を戻したい 日美展の「2月の印象」

画像 正直なところ、東日本大震災以来、心の底から笑ったことはない。体に悪いと知りつつ、被災地のこと、原発事故のことを思うと軽々に笑うことはできないと思ってしまうのだ。

「笑いの自粛」みたいな感覚なのか。 退陣を迫られ「ペテン師」と言われても、土俵際の粘りを続ける菅首相。最近の会合や被災地の視察で笑顔を見せ、会合ではVサインさえして見せたことに政治家とは宇宙人みたいなものだという思いを抱き、それでも「何をやっているのか」と、常識を疑った。

 大震災から3カ月と1週間以上が過ぎた。だが、私の心は晴れず、うつうつとして一日を送ることが多い。そんなときに、関西に住む友人からうれしいメールがあり、飛び上がった。

「福島の実家(私の生家は原発から約80キロの地点にある)は震災と原発余波で大変ですね」と題したメールだった。 それによると、友人は、公募の第12回日美展に出品し、それが「秀作」として入選した。8月5日に表彰式があり、4日から13日まで六本木の国立新美術館で友人の作品を含めた入選作品が展示されるという。

 友人は、以前は書をたしなみ、私に掛け軸を贈ってくれた。在外の日本人会の書道展で最優勝に輝いたこともある。それが、いつしか書から絵の世界に興味が移り、最近は日本画を描いていると聞いた。絵の題材を求めて、京都にもしばしば通っているらしい。 秀作になった作品は「水仙と鳩」を描き、「2月の印象」と題したそうだ。見ていないので、あくまで想像だが、京都の風景をモチーフにこの作品を描いたのだろうか。そして、優しさとぬくもりが見る者に伝わるのではないかと思う。

 友人の生き方は繊細でひた向きだ。物事をとことん追求する。悔しいが、私にはまねができない。一年こそ違いがあるが、友人と私の誕生日は同じだ。一年先輩の友人は新しい世界を確立しつつあるようだ。そんな彼の姿を思い出しながら、私も笑うことを心がけようと思う。政治家の「から笑い」とは異なる、心からの笑いだ。被災地の人々にもいつかは、笑いが戻るだろう。友人からのメールを見ながら、そんなことを思い続けた。 (日美展は公益財団法人 国際文化カレッジが主催する8つのジャンルの絵画展)