小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

美術

1656 坂の街首里にて(6) 画家たちが住んだニシムイ

那覇市首里の一角に、かつて画家たちが住み、駐留米軍の関係者と交流した「ニシムイ」と呼ぶ地区があったことを、今回初めて知った。2009年には沖縄県立博物館・美術館で、この画家たちの美術展も開催されたという。ニシムイの画家たちの存在を知ったの…

1626 歴史への旅 天平の傑作「葛井寺・千手観音坐像」を見る

人は仏像を見ながら、何を思うのだろう。2月14日から東京国立博物館平成館で始まった「仁和寺と御室派のみほとけ ――天平と真言密教の名宝――」特別展を見た。特別展には、天平時代に当時の唐(中国)から伝わった今では珍しい「脱乾漆造」の千手観音が展示…

1563 ナチに捕えられた画家の大作 ミュシャの『スラヴ叙事詩』

チェコ出身でよく知られているのは、音楽家のアントニン・ドヴォルザーク(1841~1904)である。音楽評論家の吉田秀和は「ボヘミアの田舎の貧しい肉屋の息子は、両親からほかに何の財産も与えられなくても、音楽というものをいっぱい持って、世の中…

1562 「生と死」にどう向き合う 草間彌生展にて

彫刻家、画家である草間彌生は、自伝『無限の網』(新潮文庫)の中で、「芸術の創造的思念は、最終的には孤独の沈思の中から生まれ、鎮魂のしじまの中から五色の彩光にきらめきはばたくものである、と私は信じている。そして今、私の制作のイメージは、『死…

1561 ブリューゲル『バベルの塔』を見て 傲慢への戒めを思う

ピーテル・ブリューゲル(1526/1530年ごろ~1569)は、2点の「バベルの塔」の作品を残している(もう1点描いたといわれるが、現存していない)。多くの画家がこのテーマで描いているものの、傑作の呼び声が高いのはブリューゲル作である。そ…

1560 「怖い絵」について 人の心に由来する恐怖

西洋絵画には、見る者に戦慄を感じさせるものが少なくない。そうした絵画を中野京子はシリーズで取り上げた。その第1作はラ・トゥールの『いかさま師』からグリューネヴァルトの『イーゼンハイムの祭壇画』まで22の作品を恐怖という視点で紹介した『怖い…

1494 雄々しい高橋英吉の《海の三部作》 被災地作品展を見る

私が高橋英吉という彫刻家の名前を知ったのは、もう36年前のことになる。だが、その作品を見る機会がないまま長い歳月が過ぎてしまった。先日、東京藝大美術館に足を運び、そこで高橋の作品に初めて接した。海に生きる雄々しい漁夫をテーマにした代表作の…

1492 コルビュジエの思想 世界遺産になる西洋美術館

建築家、安藤忠雄氏の愛犬の名前は「ル・コルビュジエ」というそうだ。どこかで聞いた名前だ。そう、フランスの20世紀を代表する同名の建築家(1887年10月6日―1965年8月27日)である。上野の国立西洋美術館を含め、彼が設計した建物が世界文…

1483 静かな秋田の市立美術館 若冲展とは別の世界

先日、秋田市立千秋美術館の「最後の印象派」展を見た。20世紀初頭のパリで活躍した画家たちの絵80点を集めたものだ。入場者はそう多くはなく、ゆったりと時間が流れる中でじっくり絵を見ることができた。一方、上野の東京都美術館で開催中の伊藤若冲展…

1475 若冲作品の原画を見る 静嘉堂文庫美術館を訪ねて

伊藤若冲(1716~1800)が「「巧妙無比」と言った絵が私の目の前にあった。それは仏画「釈迦三尊像」のうちの2幅「文殊・普賢像」であり、先日見たばかりの若冲の絵と重ね合わせた。東京・世田谷の静嘉堂文庫美術館に出掛けた。東急田園都市線の二…

1472 奇想の画家の系譜 伊藤若冲から村上隆へ

伊藤若沖(1716~1800)は江戸時代の絵師で高い写実性に加え、想像力を働かせた作品が特徴であることから、「奇想の画家」と呼ばれている。東京都美術館で22日から始まった生誕300年記念の「伊藤若冲展」はまさかと思えるほどの人が詰めかけ、…

1468 続カラヴァッジョ 新たな「ユーディット」との出会い

東京・上野の国立西洋美術館で開催中の「カラヴァッジョ展」には、世界公開が初めてという《法悦のマグダラのマリア》(注1)が展示されている。2014年に発見され、真筆と鑑定された作品だ。カラヴァッジョは鮮烈な光と濃い闇のコントラストを効果的に…

1456 カラヴァッジョの心の闇 逃亡犯の絵画芸術

殺人犯として追われるほど破天荒な生活をする一方、バロック絵画の創始者として名を残したのは、イタリアのミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)である。国立西洋美術館で開催中の「カラヴァッジョ展」(カラヴァッジョ作品…

1450 悲劇の画家の肖像画 憂い漂うファブリティウス

森アーツセンターギャラリー(東京・六本木)で開催中の「フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展」を見た。オランダのこの世紀の代表的画家といわれるフェルメール(1632~75)とレンブラント(1606~69)の作品(…

1442 「聖母子像画」に見る美の追求 ダ・ヴィンチとボッティチェリ展

美術とは何だろうと、約500年前の2つの名画を見てあらためて考えた。それはレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)の「糸巻きの聖母」とサンドロ・ボッティチェリ(1444/45~1510)の「書物の聖母」である。活動時期が重なり、ルネ…

1422 芸術は歴史そのもの 絵画と映画と

12月になった。季節は冬。人生でいえば長い歴史を歩んできた高齢者の季節である。最近、歴史を考える機会が増えた。それは絵画であり、映画だった。まず、絵画展。「村上隆の五百羅漢図展」(六本木ヒルズ、森美術館)、DIC川村美術館(千葉県佐倉市)…

1418 画家フジタが生きたパリ 喜びと悲しみを内包した芸術の都

映画「FOUJITA」は、フランスを中心に活動した画家、藤田嗣治(1886~1968)の半生を描いた日仏合作の作品だ。監督は小栗康平、主演はオダギリ・ジョー。藤田といえば、オカッパ頭とロイドメガネで知られ、1820年代のパリで日本画の技法も取り入…

1411 会津の歴史が詰まる古刹 国宝を持つ勝常寺

「山は暮れて野は黄昏の薄哉」(与謝蕪村) 蕪村は江戸時代を代表する俳人で、絵師でもある。先日、未確認の俳句212句が俳句集「夜半亭蕪村句集」に収録されていたというニュースがあり、蕪村の俳句の奥の深さを感じたものだ。秋の気配が漂う会津や日光を…

1408 ヨンキントとユトリロと 感受性強く知的な芸術家たち

詩人の大岡信は、『瑞穂の国うた』(新潮文庫)というエッセーの中で、秋のしみじみとした感じを象徴するのは酒であり、騒がしいビールの季節が終わり、10月は静かな日本酒の季節だという趣旨のことを書いている。 酒がおいしい季節がやってきて、私の部屋…

1398 カッサンドルと亀倉雄策と 五輪のエンブレムをめぐって

白地に赤い太陽と黄金の五輪マークを組み合わせた第18回東京五輪(1964年)の大会シンボルマーク(エンブレムのこと)の制作者、亀倉雄策(1915~1997)はフランス人グラフィックデザイナー、アドルフ・ムーロン・カッサンドル(1901~1968)を尊敬していたと…

1398 カッサンドルと亀倉雄策と 五輪のエンブレムをめぐって

白地に赤い太陽と黄金の五輪マークを組み合わせた第18回東京五輪(1964年)の大会シンボルマーク(エンブレムのこと)の制作者、亀倉雄策(1915~1997)はフランス人グラフィックデザイナー、アドルフ・ムーロン・カッサンドル(1901~1968)を尊敬していたと…

1397 地球の裏側にやってきたペルーの宗教画 藤田嗣治が持ち帰ったクスコ派の作品

日本画の技法を油彩画に取り入れ、エコール・ド・パリの画家として知られている藤田嗣治は1931年南米旅行をした際、ペルーのクスコを訪れている。標高3400メートルの高地にあるクスコはかつてのインカ帝国の首都で、インカ文明の中心地だった。ここ…

1395 これが安藤忠雄の真骨頂? 藤田嗣治壁画の秋田県立美術館

藤田嗣治(1886―1968)の壁画「秋田の行事」を見たのは、かなり昔のことだ。秋田市の千秋公園(旧久保田城跡)に面した旧県立美術館は、秋田の資産家、平野政吉のコレクションを中心に展示し、藤田の壁画が巨大に見えた。 その壁画は、2013年9月にオー…

1391 未来を予見させる聖母子画 ラファエロと無名画家

アルテ・マイスター絵画館(ドイツ・ドレスデン、古典巨匠絵画館)の『システィーナの聖母』(『サン・シストの聖母』とも呼ばれる)はラファエロ(ラファエッロとも)・サンティ(1483~1520)の最もよく知られた祭壇画である。第二次大戦後、ソ連に持ち去…

1385 大災害から復興したオランダの古都  フェルメール・「デルフトの眺望」

8月になった。部屋の絵カレンダーをめくると、今月は日本でも人気が高いヨハネス・フェルメール(1632~75)の風景画『デルフトの眺望』だった。フェルメールが自分の生まれ故郷、オランダ南ホラント州デルフトの朝の町並みを描いた作品だ。 1660〜16…

1385 大災害から復興したオランダの古都  フェルメール・「デルフトの眺望」

8月になった。部屋の絵カレンダーをめくると、今月は日本でも人気が高いヨハネス・フェルメール(1632~75)の風景画『デルフトの眺望』だった。フェルメールが自分の生まれ故郷、オランダ南ホラント州デルフトの朝の町並みを描いた作品だ。1660〜16…

1381 美を考える ニュースに登場する醜悪な人たち

最近、美について考えることが多い。美という概念からは芸術、哲学から自然界まで幅広いものを感じとることができる。関心事の一つである仏像を見ても、その気品ある姿は美そのものである。私の家の墓地がある寺には薬師如来像がある。顔の表情はとても柔ら…

1377 光の画家フェルメールと帰属作品  西洋美術館の『聖プラクセディス』

東京・上野の国立西洋美術館の常設展に「フェルメールに帰属」という作品がことし3月から展示されている。『聖プラクセディス』という、オランダの画家ヨハネス・フェルメール(1632-75)が若き日、イタリアの画家、フェリーチェ・フィルケレッリ(1605-60…

1377 光の画家フェルメールと帰属作品  西洋美術館の『聖プラクセディス』

東京・上野の国立西洋美術館の常設展に「フェルメールに帰属」という作品がことし3月から展示されている。『聖プラクセディス』という、オランダの画家ヨハネス・フェルメール(1632-75)が若き日、イタリアの画家、フェリーチェ・フィルケレッリ(1605-60…

1353 二足のわらじの芸術家たち 多彩な才能に畏敬

手近にあったCDをかけると、ロシアのアレクサンドル・ボロディン(1833~87)の「ノクターン~弦楽4重奏曲第2番ニ長調第3楽章」が流れてきた。ボロディンといえば作曲家のほかに化学者の顔を持ち、二足のわらじを履き続けた人である。 多方面に才…