小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1345 平山郁夫の一枚の絵 千葉県立美術館にて

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サラエボは画家としての私に、どんな境遇や環境にあろうと、平和を祈る作品を描き続けなければならないと、あらためて覚悟させた。画家として、感動することがいかに大事であるかを再認識させた」――。  改修工事のため休館していた千葉県立美術館が再開館し、開館40周年記念特別企画展として「平山郁夫展」が開催されている。

 平山郁夫といえば、仏教伝来とシルクロードをテーマにした作品や、比叡山延暦寺法隆寺薬師寺などの日本文化の美を追求したスケールの大きな作品で知られ、そのうち93点が展示されるというもったいないくらいの特別展である。  

 今回展示された作品の中で、私は一枚の絵の前で多くの時間を割いた。「平和の祈り―サラエボ戦跡」(1996年作・佐川美術館所蔵)という題がついたボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボで描かれた作品である。この絵には、冒頭に記した平山の言葉が紹介されていた。  

 多民族国家だった旧ユーゴは共産党独裁政権の崩壊後、クロアチアスロベニアなどが次々に独立を宣言、激しい紛争が起きた。ボスニア・ヘルツェゴビナも1992年に独立を宣言したが、同国内に住む民族間(ボシュニャク人+クロアチア人対セルビア人)の対立が武力衝突に発展、互いに民族浄化という大量虐殺を行うなどの歴史的紛争となった。NATOの介入などで95年12月に和平が実現したが、この間、多くの血が流された。サッカー日本代表監督に決まったバヒド・ハリルホジッチ氏(62)はこの国の出身だ。

 平山は、国連の平和親善大使として和平後の96年4月~5月にボスニア・ヘルツェゴビナを訪問した。ビルが崩壊するなど戦争の傷跡が生々しいサラエボの広場でスケッチをしていると、子どもたちが集まってきたという。その子どもたちの明るい表情と純真な瞳に未来への希望を感じ、「平和の祈り」を描きあげた。  

 この絵は、廃墟を背景に広場に8人の子どもたちが並んで立ち、こちら側を見ている。男女4人ずつの計8人の子どもたちは幼稚園児から中学生くらいまでの年齢と思われ、左端の2人はきょうだいらしく、後ろの子が前の子を抱くように肩から手を回している。真ん中の一番年上らしい女の子が腕を組むようにして一点を見つめている。平山が書いている通り、子どもたちの表情には屈託がない。大人の争いによって、この子どもたちも苦難をなめてきたに違いない。それでも子どもたちには未来があるのだと、この絵は語りかけてくれる。  

 平山は広島県瀬戸田町生口島・現尾道市)の出身で、中学3年生当時、学徒勤労動員で広島の陸軍兵器補給廠で作業中に被爆している。これがその後の画家としての平山の方向性を決めたといわれる。平山の祈りもむなしく、現在も世界中で子どもたちの受難が続いている。  

 間もなく発生から4年になる東日本大震災では、宮城県石巻市立大川小学校の児童をはじめ多くの子どもが犠牲になった。そして、世界各地でイスラム過激派によって子どもたちの未来が奪われる事件が多発している。世界はいま、怒りを抑えることができない出来事が多すぎる。

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            (平和への祈り―出品目録集より)

(千葉県立美術館ではこぶしの花が咲き始めていた)

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