小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1475 若冲作品の原画を見る 静嘉堂文庫美術館を訪ねて

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 伊藤若冲(1716~1800)が「「巧妙無比」と言った絵が私の目の前にあった。それは仏画釈迦三尊像」のうちの2幅「文殊・普賢像」であり、先日見たばかりの若冲の絵と重ね合わせた。東京・世田谷の静嘉堂文庫美術館に出掛けた。東急田園都市線二子玉川駅からバスで8分~10分の住宅街。大通りから小径に入り、坂道を200メートルほど上ると緑に包まれた静かな環境の静嘉堂文庫に併設された美術館があった。

 この美術館ではいま、運慶作ではないかと話題になった(結局未確認)仏像の修理完成披露の特別展が開かれていた。私の目的はこれらの仏像ではなく14世紀作といわれる2幅の仏画文殊・普賢像」だった。この絵を模写した伊藤若冲の作品は、現在上野の東京都美術館で開催中の「伊藤若冲展」で見たばかりだった。

文殊・普賢像」は米国・クリーブランド美術館が所蔵している釈迦像と合わせ「釈迦三尊像」と呼ばれ、作者は張思恭という伝説の画家だ。元あるいは高麗仏画の絵師だった可能性が指摘されているが、よく分かっていない。いずれにしてもこの絵は中国あるいは朝鮮半島から京都の東福寺に伝わり、歳月を経て日本と米国に分かれて保存されている。

 江戸時代の絵師である若冲は、何らかのつて東福寺にそろっていた「釈迦三尊像」を模写する機会を得たのだろう。 若冲が模写した作品は若冲の支援者でもあった大典顕常の相国寺(京都)に寄進され、現在に至っている。模写であるから、構成に大きな変化はない。ただ、若冲作品の方が輪郭がくっきりとし、仏の衣服など青色がかなり目に付く。若冲作の方が見やすいことは言うまでもない。

 若冲は、原画について「巧妙無比」と語ったと伝えられる。「比べようがないくらいすぐれて巧みなこと」、というから最大限の評価であり、だから模写に励んだのだろう。若冲はいまや注目を集める画家であり、その作品が展示されている東京都立美術館には、多くの若冲ファンが詰めかけている。

 模写といえば、2005年度の芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した画家の作品がイタリア人画家の作品の盗作だという疑惑が出て、受賞を取り消される事件があった。この日本人画家は東京芸大大学院を修了後にイタリアに留学、古美術の修復技術や名画の模写を学び、問題の作品は同じモチーフで描いたもので、本人の了解を得ているなどと弁明したが、当のイタリア人が「盗作」と主張したため大きな問題になった。

 一方、若冲東福寺の「釈迦三尊像」を模写して完成させ、10年の歳月をかけて描いた「動植綵絵」とともに相国寺に寄進した。それが現在では芸術作品として高い評価を受け、原画の価値も高めている。若冲はやはり稀代の画家なのだ。彼は『千載具眼の徒を竢つ』(自分の作品を評価してくれる人が現れるまで千年待つという意味)という言葉を残しているという。

 また、若冲の研究で知られる狩野博幸同志社大学教授は「西福寺(大阪豊中市、仙人掌群鶏図=さぼてんぐんけいず=を所蔵)の言い伝えによれば、若冲は当時の住職に対して自分の絵は200年後に真に評価されるだろう、といったらしい」(角川ソフィア文庫若冲』)と書いている。いずれにしろ、現代人に若冲は大きな評価を受ける存在になっている。

 静嘉堂文庫美術館は、静かな環境に恵まれている。だが、館内で驚くべき経験をした。団体で入館した熟年の女性たちが、美術品(絵画や彫刻)を前におしゃべりを続けていたのだ。その騒々しさに気が散ってしまい、早々に退散した。昨今は、こんな美術鑑賞法もあるのだろうか。

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