小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1527 未来信じる日本語ガイド  水上生活者の子ども相手に私設の学校

知人がカンボジアのプノンペンで、一人のガイドに出会った。送られてきた知人の旅行記は、ガイドのことを「氏」という敬称をつけて表現していた。それはなぜなのだろう。読み進めるうちにその理由が分かった。ガイドは私設の学校をつくり、子どもたちに勉強…

1522 中国の旅(9)完 神秘の街での雑感

今回の旅で最初に行ったのは、旅順だった。正確には大連市旅順口区という。日露戦争の舞台でもあり、その後多くの日本人が住んだ。八木さんも生まれたこの街は近年まで対外開放されることなく、神秘の地ともいわれたそうだ。 「官民の手によって、今日まで丁…

1521 中国の旅(8) 神風運転の車に乗って……

特に途上国に行って車の運転をしようとする人は自分の腕に自信があるか、必要に迫られて仕方なく、という場合が多いのではないかと思う。例えば、私は東南アジアのタイやベトナムで「運転を」と言われても、辞退する。車の洪水の中で立ち往生してしまうのが…

1520 中国の旅(7) サービスについて、ある体験

以前、中国を訪れた際、社会主義の国なのだからサービスは不要だというような、店員の態度に腹を立てたことがあった。物を買うと、お釣りを投げ「ありがとう」も言わない。これが中国とあきらめた時期もあった。だが、いまやそうした態度をとる店員はほとん…

1519 中国の旅(6) 若き知日派たち

いま、日本と中国の関係は「非常に」という形容詞がつくほどギクシャクしている。政冷経熱といわれて久しい。今回の旅で2組の若い世代の夫妻にお世話になった。この人たちは日本通で、八木さんの家族のような存在だ。互いに日本と中国を行き来する知人と若…

1518 中国の旅(5) いまは?のアカシアの大連

中国の旅に、私は何冊かの本を持って行った。その中に清岡卓行著『アカシヤの大連』も入っている。大連で生まれ育った清岡の自伝的小説ともいえる作品で、アカシアが香る美しい街としての大連が描かれている。32年前、初めてこの街に足を延ばしたときには…

1517 中国の旅(4) 中国の高齢者たち

八木さんは旅順で生まれ、この町で1年間だけ小学校に通っている。その小学校を探して歩いていると「旧八一零歴育退休職工活動室」と書かれた平屋の建物が目に入った。文字を読むと、定年退職者専用の建物のようだ。中国にはこのような、定年退職者が集まっ…

1516 中国の旅(3) 日本人と中国人

海外、特にヨーロッパなどを旅していると、あなた(あるいは君)は中国人かと聞かれた経験を持つ日本人は少なくないはずだ。欧米人から見たら、日本人と中国人、あるいは韓国人の見分けはつかないのかもしれない。私たち日本人は中国人や韓国人はほぼ見分け…

1515 中国の旅(2) 内モンゴル草原になびくハダク

モンゴルの人々はハダクという青い絹の布を大事にする。それは中国・内モンゴルでも同様だ。内モンゴルの工業都市、包頭から車で2時間半かけて希拉穆仁(シラムレン)(モンゴル語で黄色い川の意味)という名の草原に行った。内モンゴルなのだからモンゴル族…

1514 中国の旅(1) 内モンゴル・薩拉斉にて

82歳になる知人がいる。八木功さんだ。生まれてから45年間を中国で暮らし、その後日本に移り、いまも蒲田の中華料理店「ニイハオ」を経営しながら現役の料理人として働き続けている。9月下旬、中国でこの人がどんなところに住み、どんな生活をしていた…

1499 古代ハス咲く白水阿弥陀堂  平泉ゆかりの国宝建築物

全国に阿弥陀堂は数多い。阿弥陀如来を本尊とする大小のお堂は身近なものになっている。美しい阿弥陀堂としてよく知られている福島県いわき市内郷の「白水(しらみず)阿弥陀堂」を見る機会があった。真言宗智山派の願成寺にあり、建築物としては福島県で唯…

1483 静かな秋田の市立美術館 若冲展とは別の世界

先日、秋田市立千秋美術館の「最後の印象派」展を見た。20世紀初頭のパリで活躍した画家たちの絵80点を集めたものだ。入場者はそう多くはなく、ゆったりと時間が流れる中でじっくり絵を見ることができた。一方、上野の東京都美術館で開催中の伊藤若冲展…

1477 養老渓谷で感じる地球の驚異 地磁気逆転の地層「チバニアン」

千葉の養老渓谷に出掛けたことがある人は多いだろう。自然が美しく、温泉もある。そこにもう一つの隠れた名所があることを最近知った。地質学的に貴重な場所で、地質学の専門用語でいうと「地球磁場逆転期の地層」と呼ぶ。養老渓谷から流れ出ている養老川沿…

1470 熊本地震と私たちの国の現実 地図を見て考える

熊本が大地震に見舞われ、苦境にある。被災者の方々にお見舞いを申し上げたい。いま私は日本地図を取り出し、後の方に出ている「熊本県全図」を見ている。県の全体図に細かい地名が載っている。旅をする前なら地図を見ることは楽しい。だが、被災地を地図で…

1463 旅で感じるもの ミャンマーはアジアの楽園になれるのか

放浪の旅に明け暮れた自由律の俳人、種田山頭火は、「道は前にある、まっすぐに行かう(行こう)」が信念だった。そして、「句を磨くことは人を磨くことであり、人のかがやきは句のかがやきとなる。人を離れて道はなく、道を離れて人はない」(『山頭火句集…

1459「ラオスにいったい何が」 特別な光と風を感じる人々

村上春樹の「大いなるメコン川の畔で」(文藝春秋社刊『ラオスにいったい何があるというんですか』所蔵)というエッセーは、ラオスの世界遺産の街、ルアンプラバンの旅の記録である。 この街へ入るときに通過したベトナム・ハノイでベトナム人に「どうしてま…

1455 「ミモザの日」支える300人の公国 グリーグの贈る言葉

春を告げる花といわれるミモザの花が満開だ。きょう3月8日は「国際女性デー」である。イタリアでは「女性の日」あるいは「ミモザの日」と呼ばれている。男性から女性にミモザを贈る行事があり、この日ローマの街は黄色い花であふれるという。 この花を生産…

1455 「ミモザの日」支える300人の公国 グリーグの贈る言葉

春を告げる花といわれるミモザの花が満開だ。きょう3月8日は「国際女性デー」である。イタリアでは「女性の日」あるいは「ミモザの日」と呼ばれている。男性から女性にミモザを贈る行事があり、この日ローマの街は黄色い花であふれるという。 この花を生産…

1449 村上春樹の旅行記 「貴重な文章修行」

最近、村上春樹の『遠い太鼓』(講談社文庫)と『辺境・近境』(新潮文庫)という旅行記を続けて読んだ。前者は1986年から3年間、ギリシャ・イタリアに住み、周辺の各地を旅した記録である。後者はアメリカやメキシコ、ノモンハンという海外の旅と香川…

1449 村上春樹の旅行記 「貴重な文章修行」

最近、村上春樹の『遠い太鼓』(講談社文庫)と『辺境・近境』(新潮文庫)という旅行記を続けて読んだ。前者は1986年から3年間、ギリシャ・イタリアに住み、周辺の各地を旅した記録である。後者はアメリカやメキシコ、ノモンハンという海外の旅と香川…

1438 人生の選択 グローバル化時代の望郷とは

望郷とは、「故郷をしたいのぞむこと。故郷に思いをはせること」(広辞苑)という意味だ。世はグローバル化時代。飛行機をはじめとする交通機関やインターネットという情報手段の発達によって、世界は狭くなった。だから、望郷という言葉はあまり使われなく…

1433 混沌とした時代への訴え 映画『人生の約束』

白銀の立山連峰の威容を見たのは、4年前の1月のことだった。日本海側の冬は晴れる日が少ない。だが、私が訪れた2012年1月下旬の数日は青い空が戻り、高岡の雨晴海岸の後方にそびえる剱岳が美しかった。その白銀の立山連峰を堪能させてくれるのが、映…

1428 「人生最高の日」は 沖縄の得難い体験の共有

寒い季節になると、思うのは南の暖かな地域のことだ。中でも沖縄のことが気になる。沖縄といえば、奄美大島から沖縄に移り住んで16年になる知人がとてもいい話を教えてくれた。それは沖縄の人たちの心根の優しさを示す、文字通り心温まる話である。 知人は…

1427 幸あふれる人生 北海道移住の知人が写真展

首都圏から北海道に移住して6年目の生活を送っている知人から、最近、嬉しい知らせが届いた。実は、知人の北海道移住は悩みに悩んだ末の決断だった。だが、北海道の自然はそんな悩みを吹き飛ばした。知人が撮影した北海道の風景写真は多くの人の心に響き、…

1423 苦難の中での発想 新潟のオリーブ栽培

クイズ番組で優勝を目指す物知りは別にして、人間には知らないことが少なくない。オリーブについてもそうだった。オリーブといえば、実から採ったオリーブ油がすぐに頭に浮かぶ。だが、その葉も実は効用があることが知人からの連絡で知った。 知人は新潟市で…

1421 マルタと沖縄と ミニ国家が歩む道

最近マルタ島を旅した知人がいる。人口42万人、国土面積は東京23区の半分に当たる316平方キロという小さな島国(マルタ島やゴゾ島、コミノ島からなるイギリス連邦のマルタ共和国)である。 地図で見ると、長靴のような形をしたイタリアのつま先の位置…

1421 マルタと沖縄と ミニ国家が歩む道

最近マルタ島を旅した知人がいる。人口42万人、国土面積は東京23区の半分に当たる316平方キロという小さな島国(マルタ島やゴゾ島、コミノ島からなるイギリス連邦のマルタ共和国)である。 地図で見ると、長靴のような形をしたイタリアのつま先の位置…

1417 セザンヌの少年の絵 秋の日の特別な時間

家の前にある遊歩道には、けやきの木が街路樹として植えてある。そのけやきの葉がことしは特に色づいているように見える。いまが紅葉の盛りのようだ。最近訪れた那須高原でも美しい紅葉を見ることができた。それも数十年ぶりの友人との再会という嬉しい出来…

1415 尺八の音を聞き歩く秋日和  千鳥ヶ淵の光景

昨日、東京の街をぶらぶらと歩いた。最高気温は17・4度。日陰に入るとやや肌寒いが、歩くには爽快な一日だった。千鳥ヶ淵の戦没者墓苑付近を通りかかると「仰げば尊し」のメロディが流れてきた。近づいてみると、60歳は超えたと思われる男性が尺八を吹…

1415 尺八の音を聞き歩く秋日和  千鳥ヶ淵の光景

昨日、東京の街をぶらぶらと歩いた。最高気温は17・4度。日陰に入るとやや肌寒いが、歩くには爽快な一日だった。千鳥ヶ淵の戦没者墓苑付近を通りかかると「仰げば尊し」のメロディが流れてきた。近づいてみると、60歳は超えたと思われる男性が尺八を吹…