小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1433 混沌とした時代への訴え 映画『人生の約束』

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 白銀の立山連峰の威容を見たのは、4年前の1月のことだった。日本海側の冬は晴れる日が少ない。だが、私が訪れた2012年1月下旬の数日は青い空が戻り、高岡の雨晴海岸の後方にそびえる剱岳が美しかった。その白銀の立山連峰を堪能させてくれるのが、映画『人生の約束』(監督・石橋冠、主演・竹野内豊)だ。

 時代の最先端を行くIT企業の元共同経営者の死から始まる、富山県射水市新湊の伝統行事「曳山祭」にまつわる人とのつながりが、この映画のテーマといえる。いま、地方は疲弊し、シャッター通りが珍しくない。人が減り、曳山を維持することができない街の存在。友を失い、会社とも縁を切らざるを得ない男が、疲弊した街の人々に一夜の希望を与えることになる。こうした新湊の人たちのを見守るように、時々立山連峰が映し出されるのだ。 富山の人にとって、剱岳を含む立山連峰はどんな存在なのだろう。

 かつて富山県高岡市の知人は私に「毎朝、山(立山連峰)に向かいながら、きょうはこれから何をやろうかと考える」と話してくれた。それに対して立山連峰からは、知人を元気づける答えが返ってくるのかもしれない。高岡の隣に位置する射水の人たちも、山に向かってあいさつをするのだろうか。

 日本の祭りは夏が中心だが、新湊の曳山(放生津曳山祭)は毎年10月1、2日に開催される秋祭りである。江戸時代初期に始まったというから歴史は古い。しかしこうした伝統行事でさえ、大都市への一極集中、人口の高齢化によって維持するのは困難になっているのが全国的傾向なのだろう。

 映画は、ITという最先端と曳山という伝統を織り交ぜながら、人のつながり、友情とは何かを考えさせてくれる。「なくしてから気付くことばっかりやなあ、人生は」という(西田敏行)セリフがいい。 以前、富山を訪れた際、立山連峰を見ながら寒ブリを食べた。その味は格別だった。映画館から出るとき、いつかまた富山湾越しに立山連峰を仰ぎ見ながら寒ブリを食べたいと思った。

 このところ、立て続けに映画を見ている。『海難』『杉原千畝』「母と暮らせば』等々。その感想は、いずれもが人とのつながり、命の大事さを訴えたものと受け止めている。2016年。ことしも世界の動きはきな臭い。21世紀もだいぶ経過したのに、依然として混沌とした時代が続いている。だからこのような人の心に訴えかける映画が求められているのかもしれない。

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920 姿見せた奇跡の威容 黙して見る白銀の立山連峰 

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