小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1455 「ミモザの日」支える300人の公国 グリーグの贈る言葉

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春を告げる花といわれるミモザの花が満開だ。きょう3月8日は「国際女性デー」である。イタリアでは「女性の日」あるいは「ミモザの日」と呼ばれている。男性から女性にミモザを贈る行事があり、この日ローマの街は黄色い花であふれるという。 この花を生産しているのは、人口300人のセボルガという小さな村だ。イタリア北西部にあり、音楽祭で知られるサン・レモやモナコ公国に近い村だ。イタリアに詳しい人には、釈迦に説法だが、セボルガは人口300人とはいえ、1963年にイタリアからの独立を宣言し、セボルガ公国と名乗っている。ただし、あくまで自称であり、モナコのように国際的に認知されたわけでもなく、リグーリア州インペリア県セボルガ村というのが実態だ。 農業と観光の村として知られ、この季節になると村の山はミモザの黄色い花で埋め尽くされる。ミモザ栽培の発祥の地といわれ、多くの農家がミモザを栽培しているのだ。3月8日を前にミモザの花は収穫され、イタリア各地に出荷される。「幸せの黄色い花」ともいわれ、この日にイタリアの男性たちは愛する女性にこの花をプレゼントするのが習慣なのだという。 黄色は「愛と信頼、尊敬」などを意味するとされており、高倉健主演の「幸福の黄色いハンカチ」(1977年・山田洋次監督)という映画を覚えている人は多いだろう。高倉扮する男が刑務所から出所、偶然に出会った若い男女(武田鉄矢桃井かおり)と車で旅し、夕張の炭住街に帰ると妻(倍賞千恵子)が鯉のぼりの棹に黄色いハンカチを掲げて待っている―というストーリーで、山田監督は風にそよぐ何十枚かの黄色いハンカチを愛と信頼の象徴として使ったのだろう。 イタリアではそれに当たる植物がミモザなのであり、春を告げる花でもあるのだ。フランス西部のロアール川の河口に近い大西洋岸の島ノアールムーティエ島(人口約8230人)には、「シェーズの森」というミモザの森がある。ノアールムーティエ島は別名「ミモザの島」と呼ばれて、訪ねてみたい島である。 ノルウェーの大作曲家グリーグ(1843-1907)は親友の女性作曲家・ピアニスト、グレンダール(1847-1907)の訃報に接し、「もしミモザが歌うことができたなら、そこから流れ出る調べは、グレンダールの最も愛すべき、親愛なる音楽のようなものだろう」と述べたと伝えられている。ミモザは音楽にもたとえられるほど印象強い花なのだ。 ミモザは日本には明治の初めに入ってきて、暖地に植えられたという。関東以西の花らしく私が生まれ育った東北地方には、この花はなかった。黄色で花弁が折れ曲がったようなマンサクが山に咲くのを見て、春がやっときたのだと感じたことを覚えている。「まんさくに風めざめけり雑木山」(行方寅次郎)は、私の子ども時代を思い出させる一句である。
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写真 1、2黄色い花が美しいミモザ 3、例年より早く咲き出したモクレン 4、千葉県夷隅町の万木城跡公園の展望塔(桜の名所でもある) 1348 ミモザ咲く季節 ダンテが踏みし甃(いしだたみ) 403 うぐいすが鳴いた 優しい初音