小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1843 姑息な政府答弁書 反社会勢力の定義困難とは……

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「姑息」(こそく)という言葉がある。辞書には「(『姑』はほんのちょっとの間、『息』はやむ、やすむの意から)一時のまにあわせに物事を行うさま。その場しのぎ」(旺文社・国語辞典)とある。これに加え、「俗に卑怯なさま」(広辞苑)、「近年『その場だけの間に合わせ』であることから、『ひきょうなさま、正々堂々と取り組まないさま』の意で用いられることがある」(小学館・デジタル大事典)――そうだ。政府が「反社会的勢力」という言葉について「定義は困難」という答弁書閣議決定した。このニュースを聞いて、「姑息だな」と思った人は少なくないだろう。  

 報道によると、 政府は10日、首相主催の「桜を見る会」に「反社会的勢力」関係者が出席していたとされる問題に絡み、立憲民主党議員の「反社会的勢力の定義」に関する質問主意書に対し、「形態が多様であり、時々の社会情勢に応じて変化しうるから、あらかじめ限定的、統一的に定義することは困難」とする答弁書閣議決定したという。政府は2007年、「反社会的勢力」について「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団・個人」と定義しているのに、今回、なぜ定義は困難としたのだろう。反社会勢力関係者が桜を見る会に出ていたことがはっきりすれば政権にとってダメージになるから、こんな馬鹿げた答弁書をまとめたとしか思えない。招待者名簿は廃棄したというが、出てこないとも限らないので、予防線を張ったのだろうか。

 菅官房長官は10日の記者会見で「2007年の指針は何だったのか」と問われると、「民間企業はこの指針を踏まえたうえで、暴力団をはじめとする反社会的勢力との関係の遮断のための取り組みを着実に進めている」と述べたという。この人は何を言っているのだろうかと首をかしげた。  

 百科辞典には「反社会的勢力」について、具体的に書かれている。「該当する組織や個人は、暴力団とその団員、および準構成員、暴力団員やその関係者が関与、協力する暴力団関係企業、社会運動や政治活動を装って不当な行為をする社会運動等標榜ゴロ(ごろつきの意)、暴力団とのつながりを背景にその威力を用いるなど、不正行為の中核に存在する特殊知能暴力集団などである」(小学館日本大百科全書」)。跡を絶たない振り込め詐欺などの特殊詐欺グループもこの範疇に入る。

 冒頭で紹介したデジタル辞典には、面白い調査結果も載っている。文化庁が平成22年度に実施した「国語に関する世論調査」の中で、「姑息な手段」を<一時しのぎ>の意味で使う人が15・0%、<ひきょうな>の意味で使う人が70・9という結果が出たというのだ。言葉の使い方が時代によって変わることを示しており、共同通信の記者ハンドブック(新聞用語集)では「ずるい、ひきょうの意味では使わない」とあるものの、既に多くの人は姑息をひきょうという意味でも使っている。これを踏まえて言うと、政府の答弁書は姑息そのもので、まさに恥ずべき迷答弁と断じていい。  

 

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