小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1847 来年こそは平和であってほしい「生き方修業」を続ける仲代達矢さん

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(来年以降も芝居を通して人々に伝え続けて行きたいことは何でしょうか、という問いに対し)「1つに絞ると、戦争と平和です」。NHKラジオの歳末番組で、87歳で現役を続ける俳優の仲代達矢さんがこんなことを話すのを、散歩をしながら聞いた。凍てつく寒さだが、仲代さんの声は暖かい。そして、仲代さんは付け加えた。「テレビを見ていると、(世界で)いろんな人が犠牲になっている。だから、来年は絶対に平和であってほしい」  

 ラジオアナウンサーのインタビューに、仲代さんは戦争と平和について訴え続けてきたことに付け加え、「役者としての生き方はもちろん、やる素材が人間の尊さについて多かった」と話した。仲代さんは小林正樹監督の映画『人間の條件』(原作、五味川純平)、山本薩夫監督の映画『不毛地帯』(同、山崎豊子)、日中共同制作のNHKドラマ『大地の子』(同、山崎豊子)という名作に出演し、この3本を戦争3部作と呼んでいるという。  

 高橋豊さん(元毎日新聞特別編集委員)の著書『仲代達也の役者半世紀』(毎日新聞社)によると、仲代さんがこの中で最も思い入れが強いのは『人間の條件』だそうだ。この作品で仲代さんは梶という悲劇の兵士役を演じ、代表作となった。私はいまでもこの映画を忘れることはできない。戦争に運命をもてあそばれた主人公のつらく、悲しい映画だった。人間の愚かさ、虚しさが私の記憶の襞に刻まれた。仲代さんは『不毛地帯』、『大地の子』でもは戦争と平和を考えさせる力を持った迫真の演技をした。だから、これからも平和の大事さを訴え続けたいのだと思う。  

 高橋さんはこの本の末尾で、仲代さんが演じ続けている役者について、以下のように語ったと記している。  役者とは何か。 「『人間が人間を演じる』ことです。自分の身体を使って、役の上で他人を演じる。役者本人の人間としての生き方が必ず役に反映する。役者とは生き方です。役者志願の若者に言うのは、自分の世界に閉じこもるな。まず、人を見る、人に興味を持つ、人を愛する。それが基本です。  役者修業は、「生き方修業」にほかならない。  

 仲代さんの言葉は、役者にとどまらず、社会生活を営む私たち全般に向けられたものと受け止めたい。戦争の世紀の20世紀が終わり、21世紀になってかなりの時間が過ぎた。しかし、平和とは程遠い時代が続いている。新しい年が平和に向かって前進することを願いながら、今年最後のブログを書き終えた。