小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

929 芥川の小説作法十則 文芸中の文芸は詩

「共喰い」という作品で芥川賞を受賞した田中慎弥の、斜に構えた受賞後の会見が話題になっている。 女優のシャーリー・マクレーンがアカデミー賞に何回もノミレートされた後にやっと受賞した際「私がもらって当然」と話したことを引用して「大体そういう感じ…

926 言葉の海に生きる 震災を語る2冊の本

東日本大震災を書いた2人の芥川賞作家の本を読んだ。順に書くと玄侑宗久の「福島に生きる」と辺見庸の「瓦礫の中から言葉を」だ。 玄侑は文字通り福島に生まれ、いまも福島の三春で生活をしている。 後者の辺見は同じ被災地でも、津波の被害が最大だった宮…

915 曇りのち晴れの元旦 窓をあけよう

朝起きると、雨がぱらついていた。これでは「初日の出」は見ることができないと思った。例年なら初日の出を見るために朝7時前に飼い犬のhanaとともに遊歩道に出ているが、ことしはやめた。 天気が悪いなら、hanaの散歩はもう少し後にしようと布団に…

907 東日本大震災と文学・詩 比喩が成り立たない

「震災以後、なかなか詩が書けない」と、新聞記者で詩人の秋山公哉さんが詩誌「薇」5号で書いている。「薇」は昨年亡くなった飯島正治さんが主宰していた同人誌で、飯島さん亡き後も発行されている。今回は、東日本大震災に触れた秋山さんらの詩も載ってい…

852 言葉を扱う政治家なのに 民主党代表選の記者会見を見る

菅首相が正式に辞任を表明し、次の首相を決める民主党の代表選が29日に実施されるという。5人の候補者が日本記者クラブで会見しているのをテレビで見た。民主党で依然力を持っているという小沢、鳩山両氏が支持を打ち出した海江田万里氏(辞任の時期を失し、…

844 心に響く「歌」と「絵」 やすらぎをもたらす2つの美

ことしは本当にため息を吐いた。それは私だけではないはずだ。多くの日本人が行く末を不安に思い、東日本大震災で避難生活を余儀なくされている人たちのニュースに接し、体に悪いため息を吐いている。それは、まだ当分続くだろう。 そうした悩める魂を救うの…

833 怒っている海よ でも負けない人間の力

海についての詩を読んだ。「怒っている海」という百田宗治の詩だ。人間に津波という形の牙をむいた海。それでも、海を見つめてしまう。百田はこの詩を通じて、何を言いたかったのだろう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…

833 怒っている海よ でも負けない人間の力

海についての詩を読んだ。「怒っている海」という百田宗治の詩だ。人間に津波という形の牙をむいた海。それでも、海を見つめてしまう。百田はこの詩を通じて、何を言いたかったのだろう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…

832 暗い街に住む魔物とは 痛んだ被災者の心を癒すには

東電福島第一原発事故の収束の見通しさえはっきりしないのに、海江田万里経済産業相が突然、全国の原発の安全宣言を行い、再稼働を促したことに対し、原発を抱える知事たちから批判、反論が続出している。原発がない大阪の橋下徹知事でさえ「無責任だ。経産…

829 「ここは私が生きてきた場所なのだ」 詩人の声を聞く

内閣府がきょう東日本大震災の避難者数を12万4594人(6月2日現在)と発表した。一方、警察庁は2万5000人少ない9万9592人と発表している。国の機関がこうした違った数字を出すこと自体おかしい。協力して正しい数字をなぜ出せないのかと思う…

820 美しい故郷を思う歌 吉丸一昌の詞の心

ソプラノ歌手の鮫島有美子が歌った「四季」というCDがある。春夏秋冬それぞれ1枚に季節の歌20曲ずつが入っている。春のディスクには「故郷を離るる歌」というドイツ民謡があり、格調高い吉丸一昌の詞が付いている。それは「園の小百合」で始まり、「さ…

795 心に太陽を 避難所の人々へ

朝から昼まで窓ガラスは曇っていた。外は冷えているのだ。地震と津波と原発事故の被災地も真冬の冷え込みだ。彼岸とはいえ春はまだ遠い。避難所の暮らしをしている想像もつかない多数の人たちに、何と言葉を掛ければいいのか。 そんなことを考えていた時、人…

795 心に太陽を 避難所の人々へ

朝から昼まで窓ガラスは曇っていた。外は冷えているのだ。地震と津波と原発事故の被災地も真冬の冷え込みだ。彼岸とはいえ春はまだ遠い。避難所の暮らしをしている想像もつかない多数の人たちに、何と言葉を掛ければいいのか。 そんなことを考えていた時、人…

787 光の春、ウグイスの初音と花粉症と 心弾む散歩の季節

毎朝6時ちょっと過ぎたころ、犬とともに散歩に出る。散歩コースの調整池周辺の小さな森から、ウグイスの鳴き声が聞こえるようになったのはつい先日のことだった。 「ウグイスが初めて鳴くのをどう表現するんだっけ」「ああそうだ。初音だった」なんてことを…

760 99歳の詩集に脱帽 「柴田トヨさんの「くじけないで」

柴田トヨさんという99歳の女性の詩集がベストセラーになっている。暮れにもNHKで「99歳の詩人 心を救う言葉」というドキュメンタリー番組が放送された。奇しくも、聖路加国際病院理事長の現役医師・日野原重明さんも99歳で、2人はことしめでたく百…

741 「言葉と向き合う」詩人の死 追悼飯島正治氏

「薇」の名をつけた「詩誌」の第3号が届いた。佐川急便の「ゆうメール」という宅配便で送られてきた。封を切り、詩誌の目次を見る。なぜかこの詩誌の中心人物である飯島正治氏の作品がない。頁をめくって「静かな人詩人・飯島正治追悼」(石原武さん)とい…

704 「シッ ダールタ」の悟り ヘルマン・ヘッセの伝言

孔子の論語「為政編」に有名な言葉がある。「吾、15にして学に志し(志学)、30にして立ち(而立)、40にして惑わず(不惑)、50にして天命を知る(知命)、 60にして耳にしたがう(耳順)、70にして心の欲するところに従って矩(のり)をこえず…

643 言葉と向き合う達人たち 詩誌「・薇2」を読む

友人の飯島正治さんが主宰する詩誌「薇(び)2」が届いた。飯島さんら10人の詩人の詩と、「小景」という短文が載っている。 言葉の達人たちの詩と文章を読み返しながら、この人たちはどんな思いで「言葉」と向き合っているのだろうかと考えた。私は酒を飲…

638 バラに吹く微風 レンガの庭で

このところの休みは、庭づくりに励んでいる。もともと芝生の庭だったが、山を切り崩して造成した土地に建てた家のため、粘土質の土は水はけが悪く、芝生の伸びはよくない。 歩く場所は芝生がなくなり、土がむき出しになってしまった。そこで、頑張ってこの庭…

625 首相と幹事長の疑惑 分れた検察審査会の判断

鳩山首相の資金管理団体の偽装献金事件では、首相の不起訴処分は妥当と判断した検察審査会が、民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる事件では小沢氏を「起訴相当」と議決した。 別々の審査会(首相の方は東京第4検察審査会、小…

614 毎日がエイプリルフール 賢治の詩を思いながら

宮沢賢治の有名な詩「雨にも負けず」の中に「日照りの時は涙を流し寒さの夏はおろおろ歩き」というくだりがある。昨今のニュースを見ていると、おろおろする(途方に暮れる)話が目に付く。賢治が生きていたら、現代をどう表現するのだろうかと思う。 きょう…

595 光の季節の前に 冬の風を感じて

このところ、寒い日が続いている。カナダのバンクーバーでは冬のオリンピックが始まった。2月も半ばなのだから、これが普通なのだが、あたたかさに慣れてしまった体には、早朝の風の冷たさがみにしみる。山本健吉編の「句歌歳時記」をぱらぱらとめくる。日…

583 人工池に氷が 朝の光の中で

地球温暖化といわれているが、この季節ともなると、さすがに早朝は寒い。朝の散歩コースにある調整池にも氷が張るようになった。 このところの冷え込みで、人工池は3分の2近くが氷で覆われている。白い息を吐きながら歩いていると、池の遠くが急に明るくな…

555 詩人が考える言葉とは 詩集「薇」から

「薇」(び)という漢字は、植物のゼンマイのことであり、「薔薇」(バラ)の「薇」にも使われる。その「薇」の冠をつけた「詩誌」が詩人の飯島正治さんから届いた。8人の詩人の詩と小文を掲載した38頁の創刊号だ。私は詩のことはよく分からない。しかし…

555 詩人が考える言葉とは 詩集「薇」から

「薇」(び)という漢字は、植物のゼンマイのことであり、「薔薇」(イバラ)にも使われる。その「薇」の名をつけた「詩誌」が詩人の飯島正治さんから届いた。8人の詩人の詩と小文を掲載した38頁の創刊号だ。私は詩のことはよく分からない。しかし、言葉…

509 歌の風景 『少年時代』の風あざみ

秋到来を感じる8月の末日だ。先日、歌手の井上陽水を取り上げたテレビ番組を見た。その中で『少年時代』という歌が代表作の一つだと井上自身も語っていた。その詩の中に味わい深い造語があることを知った。「風あざみ」である。 この歌は一番の歌詞に「夏が…

480 万葉の「歌垣」再び 携帯メールで俳句と短歌

日本の伝統文化である俳句と短歌。その素養がある人はうらやましい。俳句は17文字、短歌は31文字に凝縮して、森羅万象を表現する。 日本の誇るべき文化といっていい。残念ながら、私にはその素養はない。最近隅々まで普及した携帯電話のメール機能を利用…

472 人生の歌 悲運の米国詩人

ヘンリー・ワーズワース・ロングフェロー(1807-1882)という米国の詩人の「人生のさんび歌」(文春新書、あの頃、あの詩をより。以前は「人生の歌」として知られているようだ)という詩がある。 彼は米国では多くの人に親しまれている国民的詩人だ…

425 桜の花の季節に 宴の陰で

いま、日本列島は桜前線が北上中だ。なぜかこの季節になると、心が浮き立つ。それは日本人に共通する特有の感情だ。この土日、近所の桜の名所を歩いた。多くの人たちが花を楽しみ、宴をやっている。そうした平和な光景の陰でテレビは北朝鮮のロケット問題で…

404 若い画家とオペラ歌手家田紀子さん 優雅な時間

詩人の飯島正治さんには、画家になった誠さんという自慢(私の想像だが)の息子がいる。その誠さんが京橋の画廊で「記憶と光彩」という個展を開いた。 2月の終わりの夕方、画廊に向かった。ほっそりとした青年が1人、画廊に立っている。どことなく父親の正…