795 心に太陽を 避難所の人々へ
朝から昼まで窓ガラスは曇っていた。外は冷えているのだ。地震と津波と原発事故の被災地も真冬の冷え込みだ。彼岸とはいえ春はまだ遠い。避難所の暮らしをしている想像もつかない多数の人たちに、何と言葉を掛ければいいのか。
そんなことを考えていた時、人生の大先輩の詩を思い出した。それはドイツの詩人、ツェーザル・フライシュレン(1864-1920)の「心に太陽を持て」である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
心に太陽を持て。あらしが ふこうと、ふぶきが こようと、天には黒くも、地には争いが絶えなかろうと、いつも心に太陽を持て。
くちびるに歌を持て。軽く、ほがらかに、自分のつとめ、自分のくらしに、よしや苦労が絶えなかろうと、いつも、くちびるに歌を持て。
苦しんでいる人、なやんでいる人には、こう、はげましてやろう。「勇気を失うな。くちびるに歌を持て。心に太陽を持て。」(山本有三訳)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
山本有三は、詩と同じ題名の本を出版した。20篇の記録、評伝、逸話を「胸に響く話」としてまとめたのだという。
いま、日本は未曾有の危機に瀕している。絶望という名の「負の道」が大きく迫ってきている。生き残った人たちはそこへ足を踏み入れてはならない。避難者にはこれからも苦難の道が続くだろう。でも、つらくて悲しくとも、心に太陽を持てば、生きる力がいつかは湧いてくるはずだ。
テレビで被災地の墓参りの光景が映し出された。ところどころ墓石が倒れていた。生き残った人たちは、墓前に向かい犠牲者を哀悼し、すがる思いで今後の平穏を祈ったに違いない。彼岸の墓参。私も同じ思いで線香をたむけた。