BS放送で映画『グラディエーター』(ローマ帝国時代の「剣闘士」のこと)を見た。以前にも見たことがある、ローマのコロッセウム(円形劇場=闘技場)で闘う剣闘士を描いた大作だ。既にコロッセウムのことを書いたブログでも紹介しているのでここではその内容は省くが、5万人のローマ市民(観衆)が詰めかけた中での剣闘士の闘いは迫力に満ちている。それに比べ「無観客開催」となった現代のプロ野球、サッカーJリーグは寂しい限りで、コロナ禍の深刻さはスポーツ界にとっても大きな歴史として残るに違いない。
スポーツ界だけでなく日本社会に大きな関心を集めているのは、1年延期となり7月に開会が迫った東京五輪ではないか。この五輪について、大会組織委の橋本聖子会長が「無観客の覚悟はある」と語ったことが今朝(29日)の朝刊に出ていた。これまで橋本会長は「無観客開催はあり得ない」としていただけに、トーンが変ったという印象を持つ。既に組織委員会は海外からの観客受け入れは断念しており、国内の観客数の上限については6月まで先送りになったことも報じられている。
人には立場がある。それぞれの言い分もあるだろう。それを承知の上でいえば、コロナ禍の収束が見通せない中で五輪を開催するのは「無謀」といっていい。日本に比べワクチンの接種が進んでいるインドはこのところ1日に35万人が感染するという「感染爆発」の状況を呈しており、五輪どころではないはずだ。同様にワクチン接種が進んでいるアメリカやヨーロッパ各国でも、予断が許されない事態が続いている。
日本でも変異種による感染が増加しており、ワクチン接種率は29日の時点で全人口のわずか1・1%にすぎない。これは経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中最下位。アジアでは中国、インド、シンガポール、韓国の後塵を拝しており、ワクチン接種によって日本の集団免疫ができるのは3・8年先との試算もあり、政治の責任は極めて重いといえる。
IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は先日の記者会見で「緊急事態宣言と五輪は無関係」と語った。さらに28日の5者協議(バッハ氏、パーソンズ国際パラリンピック委員会会長、橋本氏、小池東京都知事、丸川五輪担当相)でバッハ氏は「日本社会は連帯感を持って(コロナ禍に)しなやかに対応しており、称賛している」「(日本人は」精神的な粘り強さと、へこたれない精神を持っている。それは歴史が証明しており、逆境を乗り越え五輪を開催することも可能だろう」と述べたそうだ。
「へこたれない精神」という精神論で、コロナに打ち勝つことができると思っている言葉だと私は受け止めた。「戦争中の『竹槍精神』(連合軍に対し、老若男女まで全国民が竹ヤリで戦って本土を防衛するという軍部の主張)を思い出したよ」と、ラジオ体操仲間の大先輩が話してくれた。開催都市への立候補を辞退するケースも相次いでいる。どう見ても、オリンピックが歓迎される時代は終わったといっていい。
追記 東京五輪・パラリンピック、海外各国「中止・延期」7割超
新聞通信調査会(東京)が2020年12月~2021年1月にアメリカ、フランス、中国、韓国、タイの5カ国で実施した「第7回諸外国における対日メディア世論調査」(各国とも約1000人が回答)で注目すべき結果が出た。質問項目の中で「東京五輪・パラリンピックの開催」について「中止すべき」と「さらに延期すべき」の合計がタイ95・6%、韓国94・7%、中国82・1%、アメリカ74・4%、フランス70・6%――になったというのだ。同調査会はこの結果について「新型コロナウイルス感染拡大に対する危機感が五輪・パラリンピック開催への消極的な姿勢に表れているようだ」と分析している。同調査会は、昨年11月、日本でも同じ質問をした際「中止・延期すべき」が71・9%という結果が出ている。内外とも五輪に対する人々の視線は冷ややかといえよう。