小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2027 異常・異例五輪開催へ ワクチン効果減少も懸念

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 コロナ禍が続く中で、スポーツが大きな話題になっている。23日から始まる東京五輪は、東京に4度目の緊急事態宣言が出されることが決まったことから、まん延防止重点措置が継続される神奈川、埼玉、千葉を加えた4都県で開催する競技は無観客開催となった。野球に目を転じると、海の向こうの大リーグで大谷翔平本塁打を量産し、松井秀樹の日本人記録31本を超える32本を打った。一方で平成の怪物といわれた松坂大輔が今シーズン限りで引退するという寂しいニュースもあった。スポーツに対する見方は無関心派、見るのもやるのも大好きな派と人それぞれだ。では、無観客で開催する東京五輪は世界中の人々の目にどう映るのだろう。

 8日夜、東京への緊急事態宣言を決めた後、記者会見した菅首相東京五輪について「40億人がテレビを通じて視聴するといわれるオリンピック・パラリンピックには、世界中の人々の心を一つにする力がある。新型コロナという大きな困難に直面する今だからこそ、世界が一つになれること、そして全人類の努力と英知によって難局を乗り越えていけることを東京から発信したい」と語った。だれもがこんな空虚な言葉に納得しないのは言うまでもない。

 アフガン侵攻に抗議して多くの西側諸国がボイコットしたモスクワ大会(1980年)、初めて聖火リレーを取り入れ、ヒトラー国威発揚に利用したベルリン大会(1936年)以上に、近代五輪史上稀な「異常な大会」になることは間違いない。何しろ、無観客で五輪をやるのは史上初めてなのだ。コロナ禍と闘う世界の人々の心がこうした「異例・異常」続出の五輪で、到底一つになるとはとても思えない。東日本大震災からの「復興五輪」というキャッチフレーズもとうに吹き飛んでしまった。五輪開催をめぐってこれほど批判が集まった大会を私は知らない。大会運営はだれが見ても苦難の道をたどるだろう。先のことは予断を許さない。しかし、見通しは暗いと言わざるを得ない。

 そんな時に、アメリカの大手製薬メーカーファイザー社の最高科学責任者が、ドイツのメーカーと共同開発した新型コロナワクチン(いわゆるファイザー)の3回目の追加接種(ブースター接種)の許可を8月中に米食品医薬局(FDA)に申請する方針を明らかにしたというロイター電を見た。2回目の接種から半年が経過すると、抗体が弱まり再感染のリスクが高まることやインド由来のデルタ株の広がりがこの背景にあるそうだ。ファイザーによると、3回の接種を受ければ抗体レベルは2回接種と比べ、5~10倍になるとのことだ。

 既にイスラエル保健省が6月のファイザー製ワクチンの感染・発症予防効果は64%まで低下した(当初は同95%前後)と発表しており、ワクチン効果の減少が懸念されている。ワクチン接種が世界で一番進んでいるはずのイスラエル羽田空港で来日した五輪選手の一人からコロナの陽性反応が出た。これを見ても東京五輪は危ういことが分かる。

 当初、新型コロナウイルスは、ワクチンの接種によって「集団免疫」ができて感染者が減少、数年で克服するという見方があった。しかし最近は次々に出現する変異株(デルタ株など)、一定数のワクチン忌避者の存在、子どもたちへの接種の遅れなどから集団免疫達成は困難という悲観的見方をする専門家も少なくないという。そうした中で、世界の多様な国々、地域から多数の人たちが集まる五輪が開催される。「全人類の努力と英知によって難局を乗り越えていける」と首相は宣言したが、私には壮大な社会・人体実験になるのではないかと思えてならない。