小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1725 けやきの遊歩道無残 紅葉奪った塩害

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 街路樹のけやきの葉の色がことしはおかしい。例年なら赤や黄、茶の3色に紅葉して美しい秋を演出するのだが、ことしに限って美しさが失われてしまった。よく観察してみるとほとんどの葉が褐色(こげ茶色)になっている。文字通り枯れ葉といった印象なのだ。その原因は台風による塩害だと思われる。この街に住んで30年以上になるが、初めての現象に出会った。  

 私が住む千葉市はことし9月30日夜、台風24号が通過した。この台風は9月21日にマリアナ諸島で発生したあと、海面水温の高い所を進んだことから猛烈な勢力に発達した。29日には沖縄付近を「非常に強い」勢力で通過し、その後は北東へ進んだ。30日午後8時ごろに非常に強い勢力を保ったまま、和歌山県田辺市付近に上陸、その後近畿から中部、関東、東北を縦断し、北海道東部の沖合へと進み、10月1日に温帯低気圧に変わった。非常に強い勢力で台風が上陸したのは、21号(9月4日、徳島県南部に上陸し近畿地方を中心に大きな被害を出した)に続いて2個目。非常に強い勢力の台風が1年に2個上陸するのは、統計を取り始めてから初めてだったという。  

 沖縄から東北にかけて広く記録的な暴風となり、関東でも八王子で最大瞬間風速45.6メートルを観測し、全国で大規模停電があり、首都圏では倒木などで鉄道の運転見合わせが相次いでことは記憶に新しい。沿岸部ではこの強風に乗って多量の海塩粒子が運ばれ、ケヤキの葉もやられてしまったようだ。台風が過ぎたあと車を洗っている人が多かった。車も風で飛んできた海塩粒子が付着し、ボディはべたべたになっていた。相当海塩粒子の濃度が高かったのだろう。  

 葉が傷んでしまったけやきが街路樹になっているのは、この街を周回する遊歩道の一部で、「夏の道」と呼ばれている。春の芽吹きと新緑、夏の緑陰を形成する濃い緑の葉、秋の紅葉(黄葉)、葉が落ちてしまった冬木立の雄々しさ――を見ながら、散歩をする人が絶えない。顕著に目立つ木という意味の「けやけき木」が名前の由来だそうだ。私も毎年秋には紅葉したけやきに包まれて散歩をするのを楽しみにしていた。しかし、ことしはその期待は裏切られた。けやきだけでなく、マロニエの葉も潮風に傷めつけられ、例年より早く落ちてしまった。街路樹無残である。  

 静かなり潔癖なりき欅落葉 ことし2月に98歳で亡くなった金子兜太さんの句です。塩害でやられても、けやきの葉は静かにしかも潔く散っているようです。(けやきは、「きょ」とも読めるそうです)