小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2007 狂想曲は聴きたくない おーい青空よ!

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 アメリカからイギリスに移り住んだ詩人、T・S・エリオット(1888~ 1965)の『荒地』という詩は第一次大戦後のヨーロッパの荒廃を描いたものといわれるが、コロナ禍の現代にも通じる。

 4月は残酷極まる月だ

 リラの花を死んだ土から生み出し

 追憶に感情をかきまぜたり

 春の雨で鈍重な草根をふるい起こすのだ。

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 空虚の都市

 冬の夜明け、鳶色の霧の中を

 ロンドン・ブリッジの橋の上を群衆が

 流れたのだ、あの沢山の人が、

 死がこれほど沢山の人を破滅させたとは思わなかった。

           「埋葬」(西脇順三郎訳『世界文学全集』河出書房)

  第一次世界大戦の戦死者は1600万人、戦傷者は2000万人以上と言われている。一方、コロナ禍の感染者は1億6045万人を超え、333万1604人(13日午後3時現在、ジョンズ・ホプキンス大学の集計)が亡くなっている。エリオットが「空虚の都市……死がこれほど沢山の人を破滅させたとは思わなかった」と書いたのと同様の惨状が世界に拡大しているといっていい。

 インドからの報道によると、インドを流れる大河、ガンジス川の河畔に流れ着く遺体が相次いでいるという。コロナで亡くなる人が続出して火葬場が足りなくなってしまったことや遺族が火葬用の薪を用意できないなどが背景にあると、AFP通信は伝えている。21世紀になって起きた厳しい事態。歴史は繰り返すことを再確認せざるを得なかった。

 一方、日本ではコロナ対策のためのワクチン接種に関し各地で混乱が起きている。予約のための受付電話に市民からの電話が殺到し、回線がパンク状態となり、つながらなくなってしまった。ほとんどの自治体が「早い者順」で予約を受け付けているため、そのための電話が殺到しインターネットにも接続が集中した。電話回線はつながらず、インターネットのシステムも一時受け付けができなくなった自治体が続出した。この国の政府、自治体は何をやっているのかと思う人は少なくないはずだ。高齢者が困惑する中、一部自治体トップが優先してワクチンを接種したという記事も目に付く。

 知り合いの何人かはインフルエンザワクチンを一度も接種したことがない。では、コロナのワクチンはどうするのかと聞くと、全員から「接種する」という返事があった。それだけインフルエンザワクチンに比べ、接種を希望する人の割合は高いようだ。にも、かかわらず接種券を配っただけであとは「自己責任で」とやったから、混乱が起きてしまった。政府が東京と大阪に設置するという大規模接種センターは、電話での受け付けはしないという。インターネットとラインに絞るそうだが、それができない一人暮らしの高齢者はどうしたらいいのか。……内外ともにコロナワクチンをめぐって、聴きたくない狂想曲(クラシック音楽カプリッチョ=奇想曲のことで、自由な楽曲。転じて、ある出来事について人々が大騒ぎする様子を比喩して使う)が鳴り響いている。

 今、私たちは空虚の都市に住んでいるようなものだ。コロナ禍に端を発し暗い話題が尽きない。今日は曇天。しかし、明日は天気が回復しそうだ。5月は青い空が似合う季節。空を見上げて、鬱陶しい思いを振り払おう。