小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1806 ハチドリの助けを呼ぶ声 アマゾンの森林火災広がる

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 南米ブラジルでアマゾンの熱帯雨林が燃え続けているという。森林火災により今年だけでも鹿児島、宮崎を除く九州と同じ面積(1万8629平方キロ)が焼けてしまい、熱帯雨林が危機になっている。アマゾン地域には「ハチドリのひとしずく」という言い伝えがあるが、ハチドリたちは今、孤軍奮闘しているに違いない。  

 ハチドリは南北アメリカ大陸と西インド諸島に分布し、一番小さな鳥として知られている。金属光沢のある美しい鳥で、飛ぶ時の羽音がハチに似ているためこのような名前が付けられたのだという。アマゾンにも珍しくないから、言い伝えの中にも登場するのだろう。  

 日本の絵本にもなった言い伝えは以下のようなものだ。(拙ブログ2014年3月17日=1212回3月28日=1221回から

《森が燃えていました。森の生きものたちはわれ先にと逃げていきました。でも、クリキンディという名のハチドリだけは行ったり来たり。口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落としていきます。動物たちがそれを見て、そんなことをしていったい何になるんだ、といって笑います。クリキンディはこう答えました。私は、私にできることをしているだけ。(辻信一監修・ハチドリのひとしずく~いま、私にできること・光文社刊より)》  

 小さなハチドリだけでは森の火事は消せないかもしれない。だが、そのハチドリに続いて人間を含めた多くの生き物が力を合わせれば、森の火は消せるかもしれない……。この言い伝えは、自分ができることを自分なりにやるという、ボランティア精神の基本の考え方なのである。

「滄海の一粟=そうかいのいちぞく、あるいは大海の一粟(一滴)」という言葉がある。広大な青海原に浮かんでいる一粒の粟の意味で、広大なものの中の極めて小さいもののたとえである。日蓮宗の開祖、日蓮の言葉に「一滴の水漸漸に流れて大海となり一塵積りて須彌山となる」がある。

 大海の一滴といえば微量だが、この一滴が少しずつ集まって大海になるように、一つの塵が積もって須彌山(仏教の世界観で、大海中にある世界の中心に聳える高山のこと)になる――と解釈できる。まさに「ハチドリの一滴」と同じ精神ではないか。  

 報道によると、ブラジルの7月~10月は乾季のため森林火災が増える時期だといい、雷などで自然発火することもある。しかし、今年は農場や牧場の造成目的で森林に火をつけるケースが続出しており、環境保護よりも開発優先の政策をとるボルソナーロ大統領の姿勢が、森林火災激増の背景にあるとのことだ。アマゾンは「地球の肺」とも呼ばれ、世界最大の熱帯雨林であり、大量の二酸化炭素を吸収する一方で、地球上の酸素の20%を作るとされ、破壊が進めば地球温暖化に影響を与える恐れがある――と、この記事(朝日、サンパウロ岡田玄記者)は伝えている。

「何の役にもたっていないアマゾンは外国に売り払えばいい」「アマゾンは欧州よりも広い。ブラジルには火事を消す資金がない」と語ったボルソナーロ大統領は、ブラジルのトランプともいわれる極右の政治家である。アマゾンの森から今、孤軍奮闘するハチドリたちからの助けを呼ぶ声が聞こえてくるように思えてならない。  

 追記(8月29日)ブラジル北部のアマゾンの熱帯雨林の火災に関する状況を話し合うことを目的にコロンビアのレティシアで9月6日、南米各国首脳による緊急の国際会議が開催されることになった。この火災に関してG7サミットで23億3000万円の消火資金の支援が決まった。しかし、ブラジルのボルソナーロ大統領は、フランスのマクロン大統領がブラジルのアマゾン保護政策を批判していることから、この発言を謝罪することが支援受け入れの条件だと語っている。そんな場合ではないのだが……。

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 写真 1、ペルーで見たハチドリ2、アマゾンのジャングルで咲いた可憐な花3、ジャングルに生息する大トカゲ(いずれも2014年3月、筆者撮影)

 関連ブログ↓  

1212 南米の旅―ハチドリ紀行(1) 4万キロ、10回の飛行機乗り継ぎ  

1221 南米の旅―ハチドリ紀行(10)完 アマゾンに伝わる言い伝えから