小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1845 情報漏洩の当事者は同じ鈴木姓 特権利用の呪うべき行為

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 総務省鈴木茂事務次官が、かんぽ生命保険問題を巡る行政処分の検討状況を日本郵政の鈴木康雄上級副社長に漏洩したことが発覚、懲戒処分(停職3カ月)を受け辞職した。本来なら懲戒免職に当たり、役所の感覚の鈍さを露呈した処分といえる。偶然だが、この問題の当事者は「鈴木」姓の人物で、同じ鈴木姓の人たちにとって、苦々しいニュースに違いない。  

 森岡浩著『名字の謎』(新潮OH!文庫)によると、日本一多い姓は「佐藤」で、次に多いのが「鈴木」だそうだ。関東地方では、群馬県を除いて鈴木姓が佐藤姓を抜いてトップだから、今回のように悪いニュースで2人の当事者が重なるという偶然もあり得るのだろう。やめた事務次官は神奈川県、副社長は山梨県出身。  

 私の知り合いにも鈴木さんは少なくない。いずれも心優しく、いい人ばかりで、ニュースになった2人とは大違いである。前述の本によると、鈴木は和歌山県熊野が発祥の地。この地方では稲の穂を積んだものを方言で「すずき」といい、これが鈴木姓の由来だという。熊野を本山とする修験者が各地に移ってその地に鈴木姓を広めたというから、熊野信仰と縁が深い名字なのだ。そんなこととは露知らず(あるいは知っていたかもしれないが)、2人は新聞、テレビを賑わすバッドニュースの当事者になってしまった。

『ベーコン随想録』(岩波文庫)に「高い地位について」という一節がある。そこには「地位には善をも悪をもなす特権がつきものである。後者は呪うべきものである」と書いてある。事務次官は省内のことは何でも知る特権的立場にあって、今回は行政指導対象側に重要事項を漏らす悪事を働き、一方の副社長(元事務次官)は役所の先輩としての地位を利用して、後輩の事務次官から機密事項を聞き出した。まさに、特権を利用した2人の行為は呪うべきものだ。  

 企業が役所の天下りを引き受けるのはいざという際に役立つからだろう。今回は、それが露呈した。ベーコンは「地位は人を一段と善く現わすこともあり、悪く現わすこともある」とも書いている。今回のニュースは、悪く現わすこともあるという指摘が当たっていることを示している。