小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1648 ものの見方について ロマンティック街道の城は空中の楼閣か

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 ドイツ・ロマンティック街道の終点にノイシュバンシュタイン城がある。19世紀にルートヴィヒ2世によって建てられた比較的新しい城である。現在では人気スポットとして、訪れた日本人も多い。だが、この城について、皮肉な見方をした美術専門家も存在した。ものの見方は、なかなか難しい。  

 第二次大戦中、ナチスドイツはフランスから略奪した絵画を中心とする美術品をこの城や岩塩坑など様々な場所に隠していた。戦争末期、連合国は美術専門家から成る特殊部隊を編成し、これらの美術品の多数を取り戻した。米メトロポリタン美術館学芸員のジェムズ・ロリマー(のちに同美術館館長)も中尉としてこの作戦に参加し、ノイシュバンシュタイン城の作戦を指導した。その際のロリマーのメモが残っている。

「お伽噺に出てくるようなヒュッセンの近くのノイシュバンシュタイン城バイロイトの狂王ルートヴィヒによって、途轍もない疑似ゴシック様式で建てられた。開けた渓谷の中を北から城に向かって進んでいくと、山を背景にした城は、絵本の城の原型のように見えた。それは、権力を渇望した自己中心的な狂人のために実現した空中楼閣だった。それは、ギャングの集団が美術品略奪を行うための、絵画的で、ロマンティックで、辺鄙な舞台だった」(ロバート・エドゼル『ミケランジェロ・プロジェクト』角川文庫)

「途轍もない疑似ゴシック様式」「自己中心的な狂人のために実現した空中楼閣」という表現から見ても、ロリマーがこの城に好意を持っていなかったことは明白だろう。だが、アメリカリフォルニア州アナハイムに1955年にオープンしたディズニーランドの眠れる森の美女の城はノイシュバンシュタイン城をモデルにしたといわれ、その幻想性にあふれた姿ゆえに、ディズニーランドとともにこの城もいつの間にか観光客の人気スポットとなった。

 美術眼に優れたロリマー自身、まさかこの城がここまで有名になるとは考えもしなかっただろうし、まやかしの美と思い続けたかもしれない。(注・ちなみにノイシュバンシュタイン城は、人気観光地だが世界遺産ではない)  

 話は全く変わる。女性記者へのセクハラ疑惑で辞任を表明した福田財務事務次官の問題で、テレビ朝日が次官の相手の1人は自社の記者だったことを明らかにした。記者は上司に次官によるセクハラ発言があったことを報告し、自社で報道すべきだと主張した。しかし二次被害を受ける恐れがあるという理由で聞き入れなかったため、週刊新潮に連絡し、取材を受けたという経過も発表された。

 記者の行為に対し、テレビ朝日は「第三者に取材の結果を流したのは遺憾」と表明した。これに対し相反する意見が出ていて、ここでもものの見方がそう単純ではないことを実感する。 一般論で言えばテレビ朝日の発表通り「取材した結果を所属する報道機関で報道せず、週刊誌に流すのは記者倫理から外れる」ことは論を待たない。しかし「どこかで報道しなければ次官によるセクハラ被害が続く可能性が大きく、週刊誌に流した行為は公益通報に当たり、責められるべきではない」という意見も出ているから、割り切った答えは出せない。

 ものの見方はその人の生きてきた環境、教養などによって異なるし、時代背景にも影響される。だが私は生来、権力者に組しない弱者の立場に立つ。後世、この問題はどのように論じられるだろうか。

 ところで、財務省は佐川氏が国税庁長官を辞任した際も、今回の福田氏の事務次官辞意表明も、廊下での立ったままのおざなりの記者会見で終わらせた。麻生財務相を含めて、財務省の傲慢な姿勢がここでも示されているように思えてならない。それを許しているメディア側の対応も、厳しく問われていることは言うまでもない。     

 写真は以前訪れた際に撮影したノイシュバンシュタイン城