1717 AIが記者になる日 会見場の異様な人間マシン
テレビで記者会見のニュースや中継を見ながら、違和感を持つことが続いている。会見で質問をする側の記者たちが相手の話をパソコンに記録しようと、一心にキーボードを打っている。あれじゃあ相手が言ったことを記録するだけで、ろくな質問ができないだろうなと思ってしまう。記録するだけなら、そのうちAI(人工知能)に取って代わられるのではないか。こうした光景は今や日常茶飯事らしい。
さすがに報道機関の現場でもこうした「パソコン記者」の姿に、私と同様違和感を持つベテランもいるようだ。だが、編集幹部は見て見ぬふりをしているから、この現状は変わりそうにないと、知り合いが教えてくれた。 「政治家の誰彼がああ言ったこう言ったという表面的な事実を並べただけの報道は、政治報道の名に値しない。ハラに一物も二物もある政治家の言葉の裏に立ち入って真意をあぶりださなければ、報道することの意味はない。市民が期待するのは、もっと政治の流れの本質に迫るニュースだ」
これは『ジャーナリズムよ メディア批評の15年』(新聞通信調査会)という本の中で、元共同通信記者の藤田博司氏(故人)が政治報道について批判を加えた一節だ。この指摘は正鵠を得ている。例えば、安倍首相は現在、夫人とともにヨーロッパ歴訪中である。しかし、得意のはずの外交で、これまでほとんど成果がないことは言うまでもない。北方領土返還、北朝鮮による邦人拉致という外交の2大懸案事項は全く進展がない。ただ、湯水のごとく援助という名目で税金をばらまくだけである。同行記者はパソコンを打つ暇があったら、安倍外交を詳しく検証した方がいいと私は思うのだ。
8月下旬、安倍首相は桜島を背景に自民党総裁選への立候補を表明した。NHKの大河ドラマや明治維新150周年を意識したパフォーマンスを演じたといえる。この後、鹿児島市内のホテルで支持者を前に成果を自画自賛する講演会を開いた。この会場の客席の後ろの床に座り込み、パソコンのキーボードに講演の内容を打ち込んでいる集団(約30人の記者たち)を見た地方ベテラン記者は「何をやっているのだ」と首をかしげたそうだ。だが、今はどこでもこんな光景は珍しくないようだ。だから底の浅いつまらないニュースが目立つのだろう。藤田さんの言う「政治の本質に迫るニュース」を期待するのは無理なのだろうか。