小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1647 公園に復活したキンラン 植物は天然の賜

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 近所の公園でキンランの花が咲いているのを見た。かつてはそう珍しくない山野草だったという。90年代ごろから減少し、地域によっては絶滅危惧種にも指定されているが、最近は少しずつ復活しているようだ。  

 キンランはラン科の多年草だ。久保田修著『散歩で出会う花』(新潮文庫)によると、キンランは丘陵地の雑木林で、林床にササなどが生えないように手入れされた場所や林縁などにあり、花は黄色で斜め上を向いて咲き、花弁は半開するという。この花が減ったのは、山野草ブームによる盗掘や里山の荒廃(下刈りがされなくなって、林床にササや低木が繁茂した)が背景にあるといわれる。この花の自生に、人間の生活が大きくかかわっていたのだ。  

 キンランが生えている公園は、もともと原生林だった。そこを整備して公園にしたためキンランは姿を消したが、周辺が踏み荒らされなかったので復活を遂げたようだ。数えてみると、10数本あった。植物学者の牧野富太郎は「植物に取り囲まれているわれらは、このうえもない幸福である。こんな罪のない、且つ美点に満ちた植物は、他の何物も比することのできない天然の賜である」(『植物知識』と述べた。キンランの可憐な姿を見ると、牧野の思いが伝わる。  

 立原道造の抒情詩「ひとり林に……」を読み返した。以下はその書き出しだ。  

 だれも 見てゐないのに  咲いてゐる 花と花  だれも きいてゐないのに  啼いてゐる 鳥と鳥

 キンランは人工栽培には向いていない。育てるには「外菌根」といわれる菌類がある環境が必要なのだ。だから、道造の詩のようにひっそり咲くのが自然の姿といえる。だから、私が見つけた場所は秘密にしておくことにする。(皇居二の丸庭園にもこの花があることを歌会始の記事で知った)

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 983 散歩コースに咲くユリ科の花 絶滅危惧種のユウスゲかあるいは?