小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1525 芭蕉は何を思うのか 唇寒し秋の風

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 物いへば唇寒し秋の風 

 人の悪口を言った後に、なんとなく自己嫌悪に襲われ、後味の悪い思いをすることのたとえに使われる、松尾芭蕉の句(芭蕉庵小文庫)である。ちなみに芭蕉座右の銘は「人の短をいふ事なかれ 己が長をとく事なかれ」(中村俊定校注『芭蕉俳句集』)である。

 芭蕉自身が言葉の使い方で後悔した経験があるかどうかは分からない。それにしても昨今、この句をつい口にしてしまうような出来事が相次いでいる。言葉が軽い時代なのである。

 その1、沖縄で。米軍北部訓練場のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)の建設に対する抗議活動参加者に、大阪府警の機動隊員2人が侮蔑的・差別的意味を持つ暴言を吐いた。2人は大阪に戻され、府警は戒告の懲戒処分にした。その発言は抗議参加者と口論の際に出た。「どこつかんどんじゃボケ。土人が」「黙れ、こら、シナ人」。ヘイトスピーチかと思うほどだ。府警の調査に対し2人は「侮蔑的意味があるとは知らなかった」と話していると新聞に出ていた。

 それほど常識がない人間を警察官として採用しているのが今の警察なのだろうか。(大阪府警では、妻子ある現職警察官が交際していた女性を殺した事件が起きた。しかし、幹部はだれも責任をとらなかった) この発言に対し松井一郎大阪府知事は、自身のツイッターで「表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのが分かりました。出張ご苦労様」と書いた。

 鶴保庸介沖縄及び北方対策担当相も閣議後の記者会見で「ことさら人権問題と考えることではない」と述べたという。この2人の政治家は、健全な常識を持ち合わせていないことを露呈した。  

 その2、米大統領選の共和党候補トランプ氏のオハイオ州での発言。「私は全ての支持者と米国人に、今回の歴史的な大統領選の結果を完全に受け入れると誓う。……私が勝てば」。暴言や女性を侮蔑するふるまいからトランプ氏の敗北が明白になっている中で、選挙に負ければ、結果を受け入れない可能性を示したものだ。

 次から次に問題が出てくるこの人が、共和党の候補になったこと自体、米国社会が病んでいることを示している。

 その3、中国訪問中のフィリピン・ドゥテルテ大統領が北京の講演。「(同盟関係にある)米国とは別れました。軍事的に、経済的にもです」。南シナ海問題で対立していた中国との関係が改善し、中国はフィリピンに多額の資金援助を約束した。それに対するリップサービスなのだろうか。当然、米国は反発した。

 フィリピンにはかつてクラーク空軍基地などの米軍基地があったが、1992年までに米軍はフィリピンから完全撤退した。だが、その後フィリピン軍と米軍との間で軍事演習が繰り返され、事実上の米軍の駐留状態が続いている。

 この発言が米国との決別宣言となるのかどうか。麻薬犯罪撲滅のため麻薬に関連した犯罪者の射殺命令を出しているほか、トランプ同様、暴言も目立つ。 非常識が常識になってしまう危険はヒトラー時代を思い起こせば分かるはずだが、おかしな世の中になっている。 写真 ことしもセイダイダカアワダチソウの花が咲く季節になった