小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1186 藍と茜の光景 ほのぼのとした年のはじめに

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「初空の藍と茜と満たしあふ」(山口青邨)。

 文芸評論家の山口健吉は、この句について「元朝の空の色。藍と茜とが東天に融け合い、匂い合って、その中に新春の気が、ほのぼのと感じられる」(句歌歳時記、冬・新年)と評している。初日の出を見に、近所の調整池に行くと、まさにそんな光景が広がっていた。

 空気は澄み、人も少ない。青邨もこんな光景を見ながら、抒情性豊かな句をつくったのだろうか。 このところ天気がいい。朝の散歩は、飼い犬が生きていた時代と同様、調整池の周囲に行っている。大晦日、そして元旦、さらにきょう。いずれも午前7時前後の時間だ。

 小さな調整池の向こうに太陽が昇ってくる。すると、周辺は藍と茜の色に包まれていくのだ。 池の後方には小さな森があり、その背後には道を隔てて小学校が建っている。森は茜色に包まれ、その手前の雑草が茂る原は霜に覆われ、藍色が広がっている。

 ふだんから見慣れている私には、珍しいものではない。しかし、カメラという人間とは別の媒体を通じた現場の光景はけっこう美しい。 今年は午年である。「馬齢を重ねる」という言葉がある。「たいしたこともせず,ただ年だけとる。むだに年をとる」という意味だ。自嘲、謙遜の言葉でもあるようだが、振り返ってみると、私を含めて馬齢を重ねている人間は少なくないのではないか。

 大岡信は「瑞穂の国うた 句歌で味わう12か月」という本の中で1月については「齢を重ねる」と題してこの季節の代表的句歌を紹介。「お正月は、どうせならめでたくと思っても、実際は、あまりめでたくないというのが昨今の現状でしょうが、せめて俳句ではパッと景気のいいお正月の句を読んでみたいと思うのです」と書いている。

 2014年。さて、ことしはどんな年になるのだろうか。めでたい年にしたいものだと思うのは私だけではあるまい。

 大勢の足音止まる初日影

 雲切れて光のシャワー霜溶かす

 写真 1、藍と茜の光景 2、調整池の初日の出

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