小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

719 一期一会 旅の出会いとその後

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 一期一会の縁という。生涯で初めて出会った人と不思議な縁で結ばれている場合がある。そんな思いを最近体験した。 旧ユーゴのクロアチアを中心に旅したことを8回に分けて書いた。この旅で一組の夫妻と知り合った。

 千葉県のある市からやってきた夫妻とたまたま同じテーブルで食事をした。その席で、話しているうちに夫妻が高知の出身と聞いた。それがこの話のスタートだ。 実は高知にはおいが住んでいる。黒潮町という高知市中村市の中間くらいに位置する太平洋に面した町だ。

 JRでいうと土佐佐賀が最寄り駅だ。訳があっておいはこの町に住み、現在は民宿を営んでいる。千葉の夫妻が高知というので「土佐佐賀においがいます」というと、話が盛り上がった。ご主人は四万十川のある中村市の出身で、奥さんは高知市出身だが、ご主人は土佐佐賀にも住んだことがあるらしいのだ。

 夫妻は、ご主人の母親が一人で中村に住んでいるので、時々帰省し、クロアチアから帰ったら、すぐに高知に行くとのことだった。「機会があったら、土佐佐賀の民宿を訪ねてください」と私が話し、帰国して成田空港で別れる際にも同じことを繰り返した。 それからしばらくして、山口地方を歩いている私に家族から連絡が入り、高知からの電話で、旅行で一緒だった夫妻が民宿に顔を出してくれたことが分かった。

 この連絡を聞いて私は嬉しくなった。こんなに早く訪ねてくれるとは思わなかったからだ。実直そのもののご主人と笑顔が絶えない奥さんを思い出した。 ご主人は既に会社を定年退職、好きな登山をする一方でシルバー人材センターに登録し植木の剪定・整枝などの仕事をしているそうだ。

 年老いた母親の世話という現実があるのだろうが、会社人生を全うし、第二の人生を楽しんでいるように見えた。旅では苗字だけしか知らず、互いに連絡先も明かさなかった。だが、おいという存在が仲立ちとなり、連絡先が分かった。不思議な縁ではある。  一期一会というと、近くインド駐在として日本を離れる若い友人もその範疇に入るかもしれない。不思議な雰囲気(というと、どんなと思うかもしれないが、一生懸命なのに淡々とやっているとしか見えない不思議な人なのだ)を持つ。

 私にはジンクスがある。親しくなった若い友人たちは、新天地を求めて旅立つのだ。これまでそうした友人たちを何人も見送ってきた。インドへ行く友人も間もなく私の備忘録の中の一人として加わる。