小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1175 微笑の国での生活 タイへの旅(3)

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 定年後、日本を離れて海外で暮らす「ロングスティ」希望者が増えている。日本は来年4月から消費税が8%になるため、さらに海外に目を向ける人が多くなるのではないか。「一般財団法人ロングスティ財団」。こんな財団があるとは知らなかったが、ウェブで調べていたら名前の通り、ロングスティ希望者の支援をしている財団が見つかった。

 この財団は毎年主催・後援したイベント、セミナー参加者を対象にロングスティ希望国に関するアンケート調査を実施しており、ことし4月に発表した統計では7年連続でマレーシアがトップになったという。友人が住むタイ(チェンマイ)はここしばらく2位を確保しているから、両国は魅力のある国の代表格といっていいようだ。

 チェンマイ空港に迎えに来てくれた友人は、同じ飛行機から降りた日本人男性にあいさつをしていた。碁仲間だというこの男性は関西地方の元警察官で、定年退職してロングスティ中だが、日本に一時帰国していたのだという。空港で知人を見つけるくらいだから、チェンマイには日本人もかなり住んでいるのだろう。

 日本総領事館によると、チェンマイ県やチェンライ県など北部9県在住の日本人は2011年現在で3489人、チェンマイ日本人会の会員は357人(2012年6月20日現在)、チェンマイ・ロングステイ・ライフの会の会員は147人(2012年7月21日現在)という数字である。

 ロングスティをする人たちは、それぞれに目的や事情があって海外生活を選択している。友人の場合は、会社を定年より前に早期退職、奥さんとともにチェンマイに移り住んだ。老後は海外で生活したいと考えていた友人夫妻は、当初スペインを候補に挙げて研究したが、試験的に行ってみたチェンマイが気に入り、いつのまにか10年近い歳月をこの街で送っていたという。

 友人によると、海外で暮らすには「人間関係の輪と、視野を広げることが秘訣」という。彼はタイ語を勉強し、奥さんはチェンマイ大学内で現地の人たちに生け花を教えていて、2人の姿はチェンマイの街に溶け込んでいる。交通量の多い市内でオートバイやマイカーを乗り回し、気軽に現地の人と話す友人の姿は若々しい。 友人によると、ゴルフを中心に日本人同士としか付き合わない人たちもおり、このような人たちはここでの生活が長続きしないそうだ。

 現地の女性と暮らし、家を女性名義で購入したうえ、取られてしまう男性の話も枚挙に尽きない。タイ国籍がない日本人は自分の名義で住宅を購入できないから、タイの女性の名義にする。仲がいいときには問題がないが、不仲になったり、金がなくなったりした場合に、そうした不幸な事態が発生する。一時留守をしている間に、女性の親兄弟が家に住んでいたという話も、珍しくないという。

 こんな話もある。友人の知人の奥さんは、あるとき、知り合いのタイ男性から「ご主人に家を買ってもらったら」と言われた。「国籍がないので買えませんよ」と断ると、男性は「それなら大丈夫、ご主人に私が愛人を紹介しますよ」と、大真面目で話したというのである。愛人名義で家を買いなさい、愛人は紹介するからという提案に奥さんはあきれてしまい、怒る気にもならなかったそうだ。

 ロングスティ希望国でタイの人気が高いのは、1、物価が安いこと2、豊かな自然や歴史遺産があること3、気候が比較的温暖で医療施設が充実していること(友人のコンドミニアムの近くには大規模な病院がある)―などのほか、「微笑の国」といわれ、こまかいことにはこだわらない国民性、のんびりとした人が多いことも、老後の生活を考える人たちには魅力として映るようだ。友人は「雨季の方が乾季よりも自然がきれいだ」という。スコールが汚れを流し、瑞々しい緑がひときわ映えるのだそうだ。

 

 写真 1、ワット・プラ・タート・ドーイ・ステープの仏舎利 2、ワット・プラ・タートの象の像 3、ドーイ・ステープから見たチェンマイの街並み 4、チェンマイ大学の卒業生 5、市内の野外喫茶店

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4回目へ続く