小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

718 自然を相手に楽しむ人々  これぞ第二の人生

画像関西や九州の人たちを除いて山口県周南市と聞いて、すぐにどの辺にあるか見当がつくことはないのではないか。それよりも新幹線の「徳山」の方がピンとくる。そう、徳山工業地帯がある地域である。この町で定年後、自然を相手に日々を楽しんでいる人がいる。 JR徳山駅から車で約25分。曲がりくねった坂を上り続ける。周南は海に面した町である。しかし、この坂を上りきると標高は何と300メートル以上になる。山口と聞けば「温暖な地域」と思うが、実はそうではなかった。冬は多い時で4、50センチの積雪があり、夏はエアコンの必要はない。異常な暑さが続いたこの夏「1回だけスイッチを入れようとしたが、リモコンがどこかにいってしまい、スイッチを入れるのが大変だった」と、迎えにきてくれたAさんが話してくれた。 前置きがやや長くなった。自然を相手に日々を送っているのはこのAさんだった。Aさんは周南市須々万(すすまん)にある「ふれあいの森なんでも工房」の主宰者だ。この森は市有林で6万坪ある。森の入り口の1500坪の敷地には自分たちで建てたログハウスと広場がある。荒れ果てた森を手入れしながら、子どもから大人までが楽しむ場を提供しているのだ。
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Aさんは徳山工業地帯にある出光興産の元社員だ。Aさんはこれまでの自分の人生について、会社人間だったと振り返る。55歳のときに定年後の生活に関する研修を受け、定年後に何をしたらいいのかを悩んだ。ある会合で子どもたちのことが話題になり、時代を担う子どもたちのために何かをしたいと思った。考えてみると、自分が住む地域に市有林があり、荒れ果てている。ここを使って子どものためになることができるのではないか。画像 Aさんは60歳の定年前から活動を始め、仲間とともにこの市有林の前の広場の活用を実行に移した。広場を整地し、ログハウスを建てる。現在ではトイレ棟を除き9棟になった。活動を始めて9年だから、毎年1棟ずつ建てたことになる。それもみんな行政に頼らない手作りなのだから驚く。荒れた森の整備も欠かさない。 やってきた子どもたちは広場に設置された遊具で遊び、みんなでピザをつくり、そうめん流しやる。大人たちは陶芸に取り組み、絵も描く。木工もやる。森に入っては樹木や植物の観察をする。Aさんらは子どもたちに「けがをしてかえりなさい」とけしかける。伸び伸びと遊べば、擦り傷を負うのは当然なのだ。過保護な親は目を白黒させるらしい。 面白いのは、この工房は「食材以外は何も準備する必要はない」ということだ。Aさんらはつてを頼って、ありとあらゆる「モノ」をそろえた。Aさんらはやってきた利用者の手伝いをする。それが生きがいなのだという。 森に案内してもらった。そこには初めて見る大きなキノコが生えていた。「オオオニテングダケ」だった。メンバーの一人は、こうした森の生態をカメラで撮影し続けている。もちろん、彼も定年退職者で「メンバーに入れてもらい、毎日が充実しています」と、生き生きとした表情で話してくれた。