小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

429 桜の木の下の読書 春爛漫の一日

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 4月に入って好天が続いている。桜の花が長持ちして得をしたような思いをした人が多いのではないか。我が家の庭も春の花盛りだ。チューリップ、パンジー水仙、石楠花、カイドウにカメラを向けた。

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 犬のhanaを連れて、桜が名所の公園に出かけた。ソメイヨシノは散り始めたが、八重桜が満開だった。桜の木の下で花びらを浴びながら本を読みたいと思った。そんな環境では最近読んだ井出孫六の「中国残留邦人」(岩波新書)と筒井功の「風呂と日本人」(文春新書)よりも、村上春樹の文庫本の方が向いているなと思ったものだ。

 井出は、かつて中国残留孤児を取り上げた「終わりなき旅」という優れた作品があり、今度の本はその続編ともいうべきもので、中国残留孤児、中国残留婦人という人々の発生原因、帰国までの経緯、帰国後の苦闘と補償を求めた裁判までを資料と取材で詳しく記している。

 井出は「おわりに」の中で「中国残留邦人-60余年」の辛酸が滋養に転化することを願ってやまない」と書いている。この問題を象徴する言葉だろう。 筒井は、かつて仕事仲間の一人だった。42歳で組織を去っていった。その後の生き方は詳しくは知らない。

 著者紹介によると、退職後は民俗学関係のフィールド研究を続け、現在は非定住住民の生態や、白山信仰の伝播過程の取材に当たっているという。非定住住民というのはいわゆる「サンカ」の人たちを指しているようで、その関連の著作が多い。

 日本人は風呂好きだが、筒井のこの本を読むと、風呂が各家庭に普及したのはここ半世紀のことで、近世の初頭まで京都の公家たちも銭湯に通い、それも蒸し風呂だったそうだ。筒井は日本の風呂の歴史を探るため、全国を旅し様々な風呂の形態を調べている。粘り強い取材の集大成がこの本なのである。

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 桜の木の下で読むのに向いていると思った村上春樹の本を探し出し、文庫本の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(上下巻)を読み直した。谷崎潤一郎賞をもらった不思議な物語だ。超という冠がつくほど幅広い発想があるからこそ、村上春樹は若者に圧倒的支持を受けるのだろう。

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