小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

428 「一歩進んでも形は変えない」 中国の俳優たちの思い

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現代中国には、日本の歌舞伎と似ている京劇があり、新劇のことを話劇というそうだ。 その代表格の2人が来日し、8日夕東京で「演劇に生きて」という日中文化交流協会の催しに出席した。京劇は尚長栄さん(69)、和劇は濮存昕さん(55)だ。 2人のあいさつはさすがだった。尚さんは京劇で大事なのは「重みのある声と形だ」と話し、通訳を介してはそれが分からないだろうと、京劇のせりふを実演した。言葉が通じなくとも、圧倒的な声量と節回しから尚さんが一躍知られることになった「曹操と楊修」の舞台の雰囲気が伝わってきた。 一方、濮さんは物静かで、はにかんだような表情が印象深かった。彼は「芸術の水準の深さ、美しさをこれからも学びたい」と語った。彼は、日本でも知られた映画「乳泉村の子」や「スパイシーラブスープ」などに主演したトップスターだ。 2人とも、著名な俳優(京劇と話劇)を父に持つ。飯塚容・中央大教授が司会した質疑応答では「2代目論」や「伝統と現代」について話が続いた。 2代目論の中で、尚さんは「母親のお腹の中にいるときから私は京劇のリズムに慣れていた。だから自然に5歳から舞台に上がり60年もやっている。学校の先生は怖くなかったが、父は怖かった。父のような完璧な役者になることは簡単ではないと思う」と説明した。 濮さんは「父に役者になれといわれたことはなかったが、父の影響で遠回りしながら役者になった。父は自分のことを大した役者ではないと言う。父が嫌いな役者でも私が演技指導を受けることには反対しなかった」と、父親との関係を明かした。 蛙の子は蛙ということなのだろうか。 伝統と現代に関しては、尚さんは「一歩進んでも形は変えない」と話し、常に前進を続けながらも、京劇の伝統は守るという強い意志を見せた。 一方、演劇は虚構だという濮さんは「心が表現されない演劇は失敗であり、いま中国の和劇は原点に戻らないといけない」と、演劇の本質について語った。 中国を代表する2人の演劇人からの言葉は、演劇とは無縁な私の心にも響くものがあった。それは、私たちの生き方にも通じることなのだろうと思った。