コロナ禍が続く日々、人と会うことはあまりない。以前から心温まる冊子を編集している友人とも会うことを避けている。その冊子を作っているのは友人を含めた4人だ。まさに担当を分担した四重奏・カルテットのようだ。最近、その人たちの短いプロフィールを見る機会があった。それを読みながら、どんな人たちなのだろうと想像した。それは、楽しい謎解きの時間のように感じられた。
友人の大島和典さんが参加している冊子は、埼玉県飯能市の介護老人保健施設・飯能ケアセンター楠苑(1997年6月2日開設、定員98名)石楠花の会発行の『今しかない』だ。2020年5月に創刊号、同年12月に第2号、ことし5月に第3号を出した手作りの文集だ。楠苑の利用者や同苑を支えている人たちがどんな人生を歩んできたかを振り返ったもので、斎藤八重子さんが中心になって聞き書きし、それを基に編集した。冊子の合間には読者から寄せられた感想を集めた「石楠花だより」も発行しており、大島さんを含めたカルテットのことがこの9月発行の「石楠花だより」に少しだけ紹介されている。それは以下の通りだ。
⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄
斎藤八重子さん 自称 81歳 無病息災 ☆いつも元気をくれる人 熱い思いで会を引っ張ってくれる(出身・秩父市旧大滝村)
大島和典さん 自称 六口(無口ではない)な人 ☆言葉のプロフェッショナル 頼りになる黒一点(栃木県塩谷町)
浅見京子さん 自称 畑の中で生まれました ☆常識を教えてくれる人 挿し絵や筆文字の通りの温かい人(飯能市)
滝谷淳子さん 自称 縁の下の力持ち ☆ひらめきを大切にする人 パソコン作業はご主人の担当(北海道)
⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄
私は斎藤さんとは電話で何回か話した。若々しい声でいつも力をもらう思いになる人だ。今回の「石楠花だより」のトップに似顔絵が載っている。笑顔がよく似合う人、という。想像した通りの雰囲気が絵からは伝わってくる。「ありがとう」を忘れない、素敵な人だ。
私の友人の大島さんは石楠花の会顧問で、3人からの信頼は相当厚いようだ。この
冊子を作るに当たって、言葉のプロとしての思い入れは強い。純粋で、物事にひたむ
きに取り組む情熱家だ。
浅見さんと滝谷さんのことはほとんど知らない。ただ、ここにもある通り浅見さんは絵と筆文字を担当し、温かさにあふれる冊子誕生の功労者といえる。「文は人なり」というが、「絵も人なり」であり、描かれた挿絵には浅見さんの心の優しさがにじみ出ている。滝谷さんは冊子の企画や聞き書きでそのひらめきを遺憾なく発揮していると、想像する。私はかつて北海道に住んだことがある。そこには明るい人が多かった。滝谷さんも笑顔がまぶしい人に違いない。
クラシック音楽の世界でカルテット(四重奏)は4つの楽器による合奏で、弦楽四重奏(バイオリン2つ、ビオラ1つ、チェロ1つ)のほか、弦楽三重奏にピアノを加えたピアノ四重奏、フルートを加えたフルート四重奏など編成は種々あるという。『今しかない』の4人を弦楽四重奏に例えると、バイオリンは京子さんと淳子さん、ビオラは大島さん、チェロは斎藤さんかな……などと想像する。いずれにしろ、息の合った4人による冊子編集という作業は今後も続くことだろう。
⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄
写真 郷愁を感じさせる浅見さんの絵と斎藤さんの似顔絵(Sさんの画)